2018-11-01から1ヶ月間の記事一覧

(仮)24

食堂での昼食のあと、食後の珈琲まで堪能していたら思いのほか時間は早く過ぎ。 出発したのは、14時だった。 近場なのでそれでも十分に余裕はあるが、帰りは外食しないと食堂の夕飯に間に合わせるには少々スケジュールがタイトすぎる。 「展望台の近くに宿…

(仮)23

「さっそくそれかぶってツーリングと行きたいところだが……どっか行きたいとこあんのか?」 寮のエレベーターホールで立ち止まって先輩が振り返るが、いきなり行きたい所と言われても急には思いつかなくて。 私はふるふると首を振る。 「どーすっかな…………お?…

(仮)22

私は漫画も読むが、どちらかというと小説が好きだった。 推理小説や歴史小説、家業の影響か、やれ陰陽師だの祓い屋だのといった和風のSF小説などが好きだ。 とりわけ好きな作家の作品では、男女が情を交わした翌朝の描写として珈琲を飲むシーンだったりが…

(仮)21

「それで、どうだった」 男は木の根に腰掛けて俯き、顔を上げることもせずに問うた。 腰まである長く白い髪がその顔を覆い隠し、表情を窺い知ることは出来ないが、その声は少しの期待を含んでいた。 年の頃は四十には届かないといったところか。 髪と同じ色…

(仮)20

眠りについたのは、確か0時頃だっただろうか。 ふと目が開いたものの、鳥の声もしないし、辺りが明るくないところを見ると、夜はまだ明けていないらしい。 どれくらい眠っていたんだろう ──── 暑い。 じっとりと全身に汗をかいているようだ。 私はとりあえ…

(仮)19

それなりに頑丈なベッドとは言え、2人乗れば少しは軋むもので。 ギシッという音がする度に妙な気恥ずかしさを感じてしまう。 生まれてこの方、家族や親戚以外の男性と同衾するなどという事がなかったのだから当然といえば当然なのだが。 さっきまでの睡魔は…

(仮)18

「玄関先にずっといるわけにもいかねぇだろ。入れよ」 部屋の入口で私を振り返り先輩が言うけれど おずおずと靴を脱ぎ、部屋へと足を踏み入れたものの、やっぱり私はそこで止まる。 だってさっき、ここで先輩と「かけひき」をしたんだ。そして逃げ出した。 …

(仮)17

どれくらいの間、考え込んでいただろう。 私は自分の部屋の前で立ち尽くしていた。 ひやりとした夜の空気に身を震わせて気付いた、パジャマを借りたままだ。 服も置いてきてしまったし。 とは言え、今更忘れ物しちゃいましたと顔を出すのも気まずいし ──── …

(仮)16

制御不能です、盆とハロウィンとクリスマスと正月が一斉にやってきたような大騒ぎです、私の頭の中。 だって。 だってだって。 だってだってだって!! 近い。 べらぼうに近いんですよ先輩が。 肩とかくっついちゃってるしもうコレってじゃれ合う恋人同士の…

(仮)15

もう22時前なんだ……。 私は思わず目を逸らす。 明日は土曜日 ──── 休日だけど、だからと言ってこのままここに居ていい理由にはならないわけで。 いくら子犬のような扱いを受けてるとは言え、ひとつ間違えば男と女……何が起こっても不思議ではない。 気まぐ…

(仮)14

ピンポーンと柔らかい音が廊下に響いた。 ためらうなと言われたものの、やっぱりちょっと緊張してしまって、ボタンが押せたのは何度か深呼吸をしてからのこと。 ドアを開けた先輩は、やっぱり苦笑いしていた。 部屋に入ると先程の黒いマグカップに冷たいカフ…

(仮)13

ちょうどいい暇つぶしになるだろうし、気になってるみたいだからなと手渡された「コードのない」コントローラーをおっかなびっくり操作し、始まったゲームのオープニングで画像の美しさに仰天し。 最初のイベントで主人公が声を出して喋ったところで固まり、…

(仮)12

鍵をかけ、階段を飛ぶように駆け下りる。 1階下ならエレベータを待つより早い。 「ここだよね……」 307と書いてあるプレートを2、3度確認して、深呼吸する。 チャイムを押すだけなんだけど、やけに緊張してしまうのだ。 すーは、すーは、と胸に手を当て…

(仮)11

食堂棟を覗いた後、再び中庭に戻ってきたところで先輩は立ち止まる。 「17時半か、飯には早いな……そういやお前、荷物とかはどうなってんだ?」 「今日のお昼におばーちゃんが持ってきてくれてるはずなんですけど……えーっと部屋は……407号室かな」 「40…

(仮)10

そうだった、今日からは寮なんだ。 一応、鍵と地図は貰ってあるんだけれど……10分くらい歩くって聞いたし、誰か寮生の子がいたら一緒に帰ってってお願いしようかな…… そう思って周りを見回していた時だった。 ひっと短く悲鳴が上がったのだ。 声を上げた同…

(仮)9

5時限目は校舎案内ですっかり潰れてしまったが、6時限目の授業はちゃんと受けさせてくれるつもりらしい。 先輩は休み時間に入る頃を見計らって教室まで送り届けてくれた。 当然、休み時間にはクラスのほぼ全員に囲まれるハメになったが。 「日生さんから白…

(仮)8

ふわり ──── と甘い香りが鼻腔をくすぐる。 甘ったるいわけではなく、柑橘系のフルーツのような爽やかで心地好い香り。シトラス系のコロンか何かかな……それに、先輩の鼓動が耳に伝わってくる。 ふう、と私は息を吐いていた。無意識のうちに。 安心したのだ、…

(仮)7

──── それは、5階の特別教室の説明が済み、4階へ降りてすぐの事だった。 ここは各学年の商業科が1クラスずつと……とクラスのプレートを指した彼が、ぴたりと動きを止めたのだ。 彼の見つめる廊下の先に人影がチラリと見えたかと思うと、いきなり手を掴まれ…

(仮)6

10月も半ばにさしかかろうかという、まさに秋晴れの今日。 屋上を吹き抜ける風はカラリと爽やかで、あまりの心地よさに私は思わず目を細めた。 あたりを1周見回してみるが、特に景色がいいわけでもなく……一応、市街地からは少し離れているが、自然豊かな…

(仮)5

「あのえっと……ごちそう様でした……」 およそ30分後。 私は何故か、彼と2人、学食で向かい合って食事をしていた。 ものすごーく注目を浴びているけど、彼は時折チラリと周りを見るくらいで、別に喧嘩をふっかけて行くような様子もなく。 「ああ。まぁまぁ…

(仮)4

目を白黒させてうかがうように見上げた私に、男性は口元をニヤリと歪めて見せた。わざとらしく、ことさらゆっくりと。 「見ない顔だな?」 ──── !? 男性の声を聞いた瞬間、私の体はビクッと震えた。 凄みがあるとか、そういう事じゃない。この人の声は意外…

(仮)3

寝不足のまま、翌日。 私は緊張した面持ちで、ホームルームに入った教室を廊下から眺めていた。 学校生活を離れてそんなに長くないつもりでいたけど、やたらと鼓動は激しく……つまり私は今、めちゃくちゃに緊張しまくっているわけで。 中学の頃とそんなに変わ…