2018-12-01から1ヶ月間の記事一覧

(仮)36

ビリビリと電流が走るような感覚に、上体をよじってただただ逃げようとするものの 先輩の胸を押し返す腕には力が入らず。 あ、まずい。 腰が抜ける。 かくっと膝が力を失った瞬間、先輩が素早く腰を支えてくれた。 ようやく耳から離れた先輩は、満足そうに笑…

(仮)35

桐光山を出て寮へ戻る時、少し肌寒い風を切って進むバイクにまたがって先輩の体温を感じながら思ったことがあった。 頑張りなさいよと言った瑛さんと、焦った様子の先輩。 あの時は、どういう意味の会話が交わされていたのかわからなかったけれど。 こうして…

(仮)34

俺の目の前には小悪魔がいる。 それも、天然ものだ。 瑛の登場ですっかり毒気を抜かれたというか、水を差されたというか……ともかく、あの後俺たちもすぐに店を出た。 まあ、軽く21時を過ぎていたのも理由のひとつではあったが…… あのままあそこにいたら、…

(仮)33

不思議な感覚だった。 テレビでオネェという人たちを見ても、嫌悪感もなければ特に好きだとも思わなかったのに。 黒瀬さんは、とてもとても素敵で。 オネェだったからこその魅力なんだなって、素直にそう思えた。 「拓はまだ知らないのか?」 「知ってたらあ…

(仮)32

ふわっと緩くウェーブしたセミロングの髪は艶やかで、少し垂れ目がちの瞳は長いまつ毛の奥に黒曜のように煌めき、左目の下には色っぽい泣きぼくろ。 紅過ぎないワイン色のルージュは色白な肌によく映えていて。 私の頬をつついた指先は、黄昏時の空の色みた…

(仮)31

俺の問いかけに、琴馬は滅相もない!と大袈裟に首を振った。 「私にそんな力は無いですよう、霊と遭遇 するだけで金縛りにかかっちゃうような私では祓えるわけもないですし……」 それに、と。 神妙な顔つきで琴馬は窓から見える夜景を見つめる。 その横顔は、…

(仮)30

琴馬が初めてのコース料理にアタフタしつつも、しっかりと味わって、プッシー・キャットも飲み干した頃。 俺は煙草の先に火をつけて、ふうと紫煙を吐き出した。 「あの先輩、聞いてみたい事があるんですけど、いいですか?」 「ああ、答えられることなら答え…

(仮)29

遠く、遥か遠くに見える山の稜線に、鮮やかな朱色が沈んで行くのを、私たちは黙って見つめていた。 先輩が、人ではない ──── 驚いたかと問われれば、それはもちろん。 思わず涙も止まるほど驚いた。 目の前に、大きな黒い翼を持った「天狗」が浮いていたのだ…

(仮)28

泣きそうだった琴馬は、今はただ唖然として俺を見上げていた。 まぁ、当然だろうな。 背中に羽根生やした俺が目の前に浮いてるんだから。 「わかったろ、俺が消えるかと言った理由が」 俺は妖怪で、お前は人間だ。 実る恋ではなかったんだ、だから言いたくな…

(仮)27

どこへ行くのか、とは聞かなかったし、先輩も何も言わなかった。 黙って5分ほど走ると先輩は、舗装もされていない脇道へ入り、そこでバイクを降りた。 「ここから少し奥へ入ると小川があるんだ。展望台が有名すぎて、誰も来ない」 言いながら先に立って歩き…

(仮)26

先輩が、うーんと唸る。 「わかりかけてるような気はするんだよな。……少し、整理したい。独り言みたいになると思うが、聞いてくれるか?」 「はい……」 私が頷くと先輩は少しホッとしたようにサンキュ、と言った。 そして、少しまた考える仕草を見せて、ぽつ…

(仮)25

宿泊施設の1階にあるレストランにたどり着き、30分ほど並んでようやく席に案内された時には、先輩はぐったりとしていた。 「人の多いとこは苦手なんだよな……」 「私もあんまり得意じゃないですけど……先輩ほんとにダメそうですね」 弱りきった先輩を見て、…