『Wake up,My Prince 2(Wake up,Sleeping Beauty~千歳side)』

結局、タクシーで葵を病院へ運び診察を受けさせた。
脳しんとうを起こしているだけのようで、あとは軽い打撲だそうだ。
千歳は責任を感じていたこともあり、今日は1日ずっと葵の傍についていたいと言い張り、秀一もわぴこもそれに同意したので葵は現在千歳の部屋へ連れて来られている。

「後はわぴこ達ににまかせて!!」
というわぴこの言葉に甘え、秀一とわぴこに生徒会のことや葵の家族への連絡は任せて帰って来た。

千歳がいつも使うベッドに寝かされた葵は安らかな寝息をたてている。
ラグが高級絨毯なのを良いことに座り込み、ベッドに手を乗せて葵の顔を見つめていた。
サングラスをしていない葵の顔はとても端正で、目を閉じているのにドキドキしてしまう、と千歳は思う。

――― 今ここで目を開かれたら、泣き出してしまうかも ―――

そんな事を思い、千歳は小さく首を振った。



「どこまで溺れてるのよ、私ったら……バカね」
ふんわりと手触りの良い掛布団に顔を埋めて、そのままウトウトと眠りの淵へと引き込まれて行く ――― 。


気付けば、辺りは真っ暗だった。
(私、眠って……?)
状況が把握できずにしばらくボンヤリしていた千歳の目に飛び込んで来たのは、月明かりに照らされる葵の横顔。

――― 怖くなった。
根拠など何もない。
ただ、葵が二度と目を開けてくれないのではないか。
もう自分とは関わりたくないと、拒絶されるのではないか。

そんな恐怖だけが沸々とわき上がり、千歳を押し潰そうとする。

「嫌……嫌よ、目をあけて、私を見てよ、葵……私のこと嫌いでもいいから……お願い、そばに居てよ……」

もう、溢れる涙を止めることは出来なかった。
しゃくり上げながら、千歳は泣き続ける。

叫びたいほど恐いのに、声が出ない。
かすれたような、細い悲鳴と鳴咽しか生まない口元を押さえ、千歳は再び糸が切れたようにベッドに突っ伏した。