エイプリルフールSS ’10(2)


楽しい時間というものは、どうしてこう過ぎるのが早いのか。


ゲームに興じつつ、晩飯をみんなで作りつつ、デザートなんかを頂きつつ。

俺たちは暖かい部屋の中で休日を満喫していた。

時計を見ればもう日付は変わっていて。
しかしまだまだゲームは終わる気配がない。

今度はアクションゲームだった。
これは二人までしか参加出来ないので、参加していない俺と秀一はクッキーをつまみながら二人のプレイを見ている。
これがまた面白いのなんのって。


たまに交代させられるので、そのときは俺たちが大笑いされる。
おあいこだ。





「ああ、そうだ葵」
「……ん?」


来たか?
日付はもう変わってる。
若干警戒しつつ、それと悟られないように普段通りに返事をした。


「わぴこに気をつけて」
「はぁ?」


こそっと耳打ちされて、俺は思わず秀一の顔をマジマジと見つめてしまった。

「今年はわぴこも二人をびっくりさせてやるんだって意気込んでたから」
「わぴこがかぁ?」
「あれ、信じてないね? まあいいけど、わぴこの場合何が飛び出すかわからないから気をつけたほうがいいよ」



クスクスと笑う秀一の本心がわからない。
忠告か?
いや、ブラフか?


「あーっ! やっぱり無理だよーここ絶対落ちちゃう! 秀ちゃんやって」

ぷくっと頬を膨らませたわぴこが振り向いて、俺たちはあわてて体を離した。

「僕も得意じゃないんだけどなぁ、空中ステージ」
「わぴこより上手だよ秀ちゃん」
「じゃあ、わぴこと北田くんで進めてごらんなさいな」
「え、ちーちゃんは?」
「飲み物を入れなおしてくるから、いいのよ」
「ありがとー!」


千歳からコントローラを受け取ってわぴこが楽しそうに笑う。

「葵、手伝って?」
「おう、いいぜ」




千歳からの目配せ。
何か言いたいことがあるらしいと悟った俺はよっこらしょと立ち上がる。

空になったカップを手にキッチンへ……



「あのね」
千歳が口を開きかけたので、俺はあわてて千歳を抱きしめる。
「ちょ、何いきなり……」
「これならアイツらにも聞こえないだろ」

パッと見は抱き合っているようにしか見えないはずだ。
千歳は少しモジモジしたが、俺が手を離さないので仕方なくといった様子で俺の耳元に口を寄せた。


「さっき、わぴこがこっそり忠告してくれたのよ。今年は北田くん、ものすごい嘘をつくからって」
「……わぴこが?」
「秀ちゃんがわぴこにだけは教えてくれたんだけど、ちーちゃん騙されちゃったら可哀想だからこっそり教えてあげる、ってね」
「……うーん」
「どうしたの、葵?」


どういうことだ?
秀一はわぴこに気をつけるようにと言ったし、わぴこは秀一に気をつけろと言った。

「秀一がな、わぴこに気をつけろって言ってたんだよ。今年はわぴこも嘘つくんだって意気込んでたからって」
「ええ? じゃあどっちかが嘘をついてるってことなんじゃ……」
「もう日付は変わってエイプリルフールだからな。お前はどっちの言うことが本当だと思う?」


一瞬の間。
千歳は少し申し訳なさそうに、というか苦笑して。
「……わぴこ」
「だよな」

千歳大好き人間のわぴこだ。
秀一からの情報をリークしてもおかしくはない。

対して秀一はというと……
俺にわぴこの計画をバラすメリットがないのだ。
ただ、あれが作戦の一環でないとも言い切れないが。





「……とにかく、注意深くな」
「わかってるわ、葵こそ気をつけてよね」
「おう」





俺たちはホットレモンを作るとそれを手に、何事もなかったかのようにリビングに戻った……。