「やだやだやだっ」
「わぴこ……」
「絶対にちーちゃんも一緒じゃなきゃやだ~っ!」
金曜日の放課後、生徒会室のソファーの上で子供のように手足をバタバタさせて叫ぶわぴこ。
千歳は呆れているが陥落は近いだろう。
なんだかんだ言って千歳はわぴこに甘いからな。
「ちーちゃんも一緒に紅葉狩りー!」
「ああもう、わかったわよ~しょうがないわねぇ」
……ほらな。
チラリと目で告げると隣で秀一も朗らかに笑っていた。
そんなわけで、日曜日。
俺たちは駅前で待ち合わせて紅葉の名所とやらに向かうことになったのだが。
「……ちょっと待てわぴこ。その虫取り網は何だ」
いや、聞かなくてもわかるが……
あえて聞きたい、というか突っ込まずにはいられない。
「わぴこ、紅葉を捕まえるわけじゃないんだよ」
秀一が苦笑してそういえばご丁寧に4人分の虫取り網とカゴを持ったわぴこはキョトンとした顔で俺たちを見つめる。
そして心外だと言わんばかりに声を上げた。
「えぇ~! ヒラヒラ落ちてくる紅葉の葉っぱをこれで捕まえるから紅葉狩りって言うんじゃないの?」
「わぴこ……」
激しく勘違いするわぴこをなだめすかし、ようやく虫取り網とカゴは置いて行かせることになり。
まあ実に30分の時間を要したが。
「んじゃあ、わぴこコレお家に置いてから追っかけるから、みんな先に行ってて」
「あ、待ってわぴこ。僕も一緒に行くよ」
秀一が走りだそうとしたわぴこを呼び止める。
「えー平気だよ~? 別に重くないし」
「そうじゃなくて、わぴこは今日の行き先を知らないだろう?」
「あ、そっか」
「だから僕も一緒に行くよ。そちらは千歳さんが雑誌を持ってるから大丈夫ですよね?」
「ええ、見ながらなら行けると思うわ」
「じゃあ先に二人で行ってて下さい。すぐに追いつきますから」
待て待て、俺はどうすんだ。千歳と二人きりって……
「お弁当とか荷物とか、ちゃんと持ってあげてね葵ちゃん!」
わぴこがにこにこしながら俺のそばに来て。
「よろしく葵。……僕らの努力を無駄にしないでくれよ?」
小声で秀一に言われた台詞で気付く。
仕組まれた……!
俺が千歳への恋を自覚したのが、三年になってすぐ。
秀一とわぴこにバレたのが夏。
何ら進展のない俺を後押ししようというありがた迷惑な奴らの心遣いってやつだ、畜生。
俺が睨むと秀一は楽しそうに笑って、わぴこと共に背を向けてそそくさと歩き出した。
「それじゃ行きましょうか、葵」
「……ああ」