『ライバルは君だ・4』

「ところで、話ってなんだよ秀一」

早いとこ帰って決闘に向けてのモチベーションを高めておこうかと思ったら、家に着いた途端に秀一から着信があった。

そして何故か今

俺は秀一の部屋にいる。




わぴこは千歳を送ってから合流するらしい。
皿に綺麗に盛られたクッキーをかじりつつ俺は秀一の顔を見る。
秀一は微笑をたたえて自分もクッキーを頬張っていた。



「もちろん、作戦会議だよ。じっくり彼の牙城を崩すしかないと思ったら、あちらから食い付いて来てくれたしね。こちらとしては万々歳ってところだけど油断は出来ない。だから、作戦会議さ」


なるほど、籠城して守りに徹されては手を出しづらいが打って出てくれたならやりようはあるってことか。


「しかし、決闘って言ってもなあ……殴り合いの喧嘩が出来るような坊っちゃんには見えないし、どうする気なんだろな」


由宇は華奢で、女性の母性本能をくすぐるようなタイプと言えるだろう。
背も千歳とそう変わらないし、線も細い。
顔も中性的で、俗にいう可愛いという部類に入るのだ。

まあ見た目で判断は出来ないが、とても喧嘩が出来るようには見えない。


「そうだね……これでもし彼が殴り合いの決闘を申し込んで来たなら、それは絶対に拒否すべきだな」
「……なんで」
「自分の自信のあることで勝負したくなるのが心情だろう?」
「つまり、あの見てくれにも関わらず殴り合おうって言われたら……格闘技の経験がありますってことか」
「そういうこと」


なるほど、確かに俺も喧嘩は弱くないが格闘技やってる人間にまで楽勝できる、なんて驕ってはいない。


「だからそれは除外。もし殴り合いで決闘って言われたら僕もそこには突っ込むからね」
「公平な勝負にはならねえからなぁ」


「あとは、頭脳戦かな」


テストの点数とかで勝負、ってやつか……


「葵ちゃんは頭悪くないんだからそれも心配ないよ」
「わぴこ」


部屋に入ってきたわぴこがカバンを置きながらニコニコ笑っている。

「うん、葵は基本的にやれるけどやらないだけだからね」
「うっせえよ」

テスト勉強なんてしてるヒマがあったらセールに行きたい。
普段の授業をぼんやり聞いてるだけでも大体のことはわかるんだ、それで赤点とってないんだからいいだろうが。






「ねえ秀ちゃん」
「ん?」
「決闘の方法をあみだくじで決めたらどうかな」


わぴこはソファに腰掛けて俺たちの方を見る。
ちゃんとクッキーを頬張ることは忘れない。



「いくつか方法を書き出して、ちーちゃんにあみだくじで選んでもらうの」


ふむ。
これならあとで文句もつけられない、か。


「いい考えだね。それなら向こうも受けざるを得なくなる。だとしたらあとは葵しだいか……戦うのは僕らじゃないから、こればかりはね」
「ああ。まーしょうがねえな……帰ってちょっくら教科書でも読み返すよ。あとはストレッチくらいしか出来ることはねえしな」
「うん、とりあえず今の時点で一番不安なのは勉強くらいだからね。頑張ってくれ」
「へいへい。んじゃ俺は帰るけど……」

「わぴこはもうちょっと秀ちゃんとおしゃべりしていくよ。来たばっかだもん」
「それもそうか。んじゃな、秀、わぴこ」

「ああ。また明日」
「ばいびー、葵ちゃん」







作戦会議というか……まあこれでも話し合わないでいるよりはマシだったかな。
由宇の奴だって勝算のない決闘を申し込んでくるほど馬鹿じゃないだろう。
相手の土俵に上がるってのは避けたいとこだから、わぴこの案だけでもかなり俺にとってはありがたかった。