『ライバルは君だ・3』

 生徒会室に入った俺は、自分の席につき、大きく息をついた。
秀一が何事かと俺を見つめるがうまく説明できる自信はない。


「千歳は……来る」
「……葵がそう言うなら、来るんだろうね」
「ああ、今日は来る」


きっと。
今頃ぐずる由宇をなだめて、急ぎ足でここへ向かってるはずだ。




そして、その予想は確かに当たった。
当たったんだが。


「ま、待ちなさい由宇ったら、ちょっと!」



「……なんでそいつが居るんだよ」




由宇がものすごい剣幕で飛び込んできた後にあわてた千歳が部屋に入ってきた、のだ。


久遠寺葵! 決闘だっ」


俺をビシッと指差して由宇が真っ赤な顔で叫んだ。

ははん、ようやく焦りを見せ始めたか?


「……人を指差しちゃいけないってママに教わらなかったか、ボク?」
俺はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、椅子から動くこともなく首だけめぐらせて由宇をからかうように一瞥する。

「うるさい! ぼくが怖いのか!?」

「まったく、ここは生徒会室だぜ。キャンキャン怒鳴っていい場所じゃないんだよ」

白々しい台詞なのは百も承知だが秀一は突っ込むつもりはないらしい。
俺の向かいで少し、苦笑いして見せただけだった。


「天川君。悪いけど、部外者は遠慮してもらえるかな。……君のせいで進まなかった案件の打ち合わせが山ほどたまっているんだ」


にっこり。
やわらかく人当たりのいい笑みとは裏腹な、辛らつな台詞を秀一が吐く。
邪魔だ、失せろと。


「そだね、また明日もちーちゃんが生徒会に来てくれるかどうかなんてわかんないし。出来るだけやっちゃわないとね」

わぴこもいつもの笑顔はどこへやら。
不機嫌を隠そうともせずに、窓の外を見ながら刺々しく言った。

「ま、そういうわけだ。意気込むのは結構だが時と場所を考えるくらいの余裕は持てよ」

俺たち三人にやりこめられて、由宇が悔しそうに声を漏らす。

「ゆ、由宇。悪いけど本当に立て込んでるの。葵に用があるなら明日の休み時間でもいいじゃない、ね?」

今日は帰って?
千歳にまでそう言われてしまえば、由宇に打つ手はなかったようで。

久遠寺葵、逃げるなよ!」


捨て台詞を残して、バタバタとうるさい足音をさせながら去って行った。












「で。決闘ってなんだよ」

千歳が席について大きく息をついたところで俺が言うと、千歳は困惑した様子で

「由宇がなんだか妙な勘違いをしちゃって。葵が私のことを狙ってる、とかなんとか言い出してきかなくて……そんなわけないでしょって言っても聞く耳をもたないのよ。冗談に決まって」

「冗談なもんか」

千歳が言い募ろうとするのを俺はバッサリと、否定の言葉で遮る。




いい加減ムカついた。

「冗談なもんか。俺は本気なんだよ、明日逃げるなだと? へっ、誰が逃げるかよ。テメェこそ首洗って待ってろってんだ」
吐き捨てるように言って、俺は勢いよく席を立つ。

「あ、葵?」
追いかけてくる秀一にすまねーなと声をかけて、俺は生徒会室を出た。
「このままいたら当たり散らしそうだからな、帰るぜ」


俺に勝てるつもりでいる由宇が気にくわない。
千歳は俺のもんでもないが、アイツのもんでもないんだ。

それを、まるで自分のものだと言わんばかりの態度。
自分のものにちょっかいをかけるなと言わんばかりの行動。


大人しく、じっくりと計画を練って……のつもりだったが、決闘とまで言われちゃな。
……返り討ちにしてやるよ!