なーんか秀一とわぴこの手の中で踊らされてるみたいで釈然としないんだよな。
「どうしたのよ葵。さっきからずいぶん無口じゃない」
「あ? そか? ちょっと考え事してたんだよ」
「……心配しなくてもお団子屋さんとか、色々あるわよ」
「……そりゃ良かった」
俺は一体どんだけ食い意地張ってると思われてんだ?
文句を言う気も失せて力なくそう言った俺を置いてけぼりに、千歳がパッと表情を輝かせて窓の外を見る。
「あ、ほら見て葵! もうここからでも紅葉してるのが見えるわよ! 綺麗ねぇ」
なるほど、千歳が指差した方に目をやると窓の外を流れる景色の中に真紅や橙、黄色が混じっていた。
だが俺はすぐに視線を千歳に戻す。
そして一瞬考えて
「キミノホウガ、キレイダヨチトセサン」
「なぁ~に、浅羽くんの真似!? 似てないわよぅ」
楽しそうに笑う千歳に釣られて俺も笑う。
本当は自分の言葉で言おうと思ったんだ。
けど、違う。
「お前と紅葉を比べるのが間違いなんだよな」
「どういう意味よ!」
「だからさ。お前がどんだけ綺麗でも紅葉の綺麗さとは違うわけだし、紅葉がどんなに綺麗でも人間のお前の綺麗さとは違うだろ?」
「……え……と?」
千歳は困惑顔で俺の言葉を待っていた。
「お前はお前、紅葉は紅葉。浅羽ならそんなこともわかんないだろうけどな」
俺は再び窓の外に目をやる。
相変わらず流れゆく色彩は美しい。
「一応……誉めてくれたのよね?」
千歳はもう窓の外なんか見ていなかった。
その視線は今、俺だけのものだった。
ああ、やっぱり秀一とわぴこには感謝しておこう。
「一応も何も、お前は綺麗だよ千歳。いや、可愛いって言うべきか?」
「なっ……」
ほんのり薄紅色に染まる千歳の頬。
視線を千歳に戻して、俺は思う。
真紅の紅葉も素晴らしいけど、俺はこの薄紅の方がずっと好きだ。
「気をきかせてくれた二人に感謝だな。今しか言えねー気がする」
「あ、葵?」
「お前が愛しい」
今度は千歳の耳までが薄紅に染まった。
逃げ場は与えない。
好きだ、友達として……なんて逃げ場を用意してちゃいつまでも進めないからな。
「俺は本気だぜ。千歳、お前の気持ちは?」
「あ、う、わ、わたしは……その……」
「……なんてな。聞かなくてもお前の顔見りゃわかるっての」
千歳は何でも顔に出るからな。
案の定、気分を害した千歳は目を三角にして食いついてきたが、墓穴を掘っていることには気づいていないようだ。
「なによ、それ!」
「んじゃ聞こうか? どうなんだよ千歳?」
「う、うううっ」
目をうるうるさせて、薄紅の顔で俺を睨む千歳は壮絶に可愛くて。
ここが電車の中じゃなきゃ勢い余って何かやらかしてそうだ。
まあしょうがねぇなぁ……無理やり言わせても仕方ないし、なんて。
そんなことを考えた瞬間だった。
千歳が上目遣いに俺を見つめて、こう言ったもんだから。
「わ、私にもちゃんと言わせてよ……葵が、好きですって……っきゃ!?」
てめー千歳……不意打ちは卑怯だろ……
見ろ、俺のヤワな歯止めなんてどこかに吹っ飛んじまった。
そんなわけで俺は全てを彼女のせいにしながら、夢心地で千歳を抱きしめていた……。
……そして気付く。
降りる予定の駅などとっくに通り過ぎていることに。