『Wake up,My Prince 1(Wake up,Sleeping Beauty~千歳side)』

千歳にとっての日常。
それは、騒がしいながらも楽しいものだった。
葵のイタズラに逆上して、こうして追いかけまわすことも、今しか経験出来ない貴重な「青春」なのだと知っていたのだ ―――。


『Wake up,My Prince』


「葵!待ちなさーい!!」
今日も今日とて、何ら進展のない自分達。
だが千歳はこのささやかな幸せを失うのが嫌だった。
葵のことが好きなのだと確信したのは最近のこと。
だが、その気持ちを伝えればこの関係が崩れてしまう……。
だから、千歳は葵に気持ちを伝えないことを決めたのだ。

(臆病でもいい。今は近くにいられたら、それでいい)

フッとそう思った瞬間だった。
目の前の階段で、葵の姿がかき消えた。
彼が階段から落ちたのだと気付き、自らも転がるようにして葵の元へ駆け寄る。
「葵っ」
返事はない。
もう校内には余り人も居ない時刻だった。

生徒会室には秀一とわぴこがいるハズだが、葵をここに残して呼びに行くことはしたくない。
千歳は、泣きそうな声でわぴこの名を呼んだ ―――。

真っ先に駆け付けたわぴこに、その後ろを全力でついて来た秀一。
蒼白な千歳を見て、千歳が落ちたのかとわぴこが心配したが秀一は苦笑した。
こんな時にしか素直になれないんですね、とその表情が語っていて。
千歳は苦虫を噛み潰したような顔をして見せた。

(わかってるわよ、北田くん。このままの日常がずっと続いたりしないってことくらい)

いたたまれなくなって目をそらした千歳に言葉はかけず、秀一は葵の様子を見ようと側にしゃがむ。
その時、少し葵がうめき声を上げたように思えて、千歳は思わず泣きそうな声で彼の名を呼ぶが

何かを言おうとしたように、一瞬だけ口元を開きかけて葵はまた意識を失ってしまった。