Clue(葵×千歳、Realizeの続編)

(な、な、な、なんだとぉ~!? 千歳の奴っ)

千歳との口論から発展した鬼ごっこでもして楽しく帰ろうと思っていたのに。

予想外の展開で暖簾に腕押し状態、ストレスで頭からキノコでも生えそうだった葵の歩みは遅かった。


それ故、教室で交わされていた千歳とわぴこの会話が耳に入ってしまったのだ。

思わず教室に駆け込んで怒鳴りつけてやろうかと思ったが、すんでのところで踏みとどまる。


(待てよ、今あいつにつっかかっても同じように返されて終わりだ。考えろ、あいつを俺と同じくらい動揺させるにはどうしたらいい?)



じっと佇んで考えていた葵の口元に、不敵な笑みが浮かんだ。

「見てろよ、千歳……」
クックックッと不気味に含み笑いを漏らしながら、葵は生徒会室へと足を進めた……









翌日から、葵の猛攻が始まった。
「千歳、たまには一緒に飯食わねえ?」
「重そうだな、その書類。貸せ、半分持ってやるから」
「なんだマフラー忘れたのか? 俺の使えよ」
「今日は会議あるんだろ? 先に行っとくぜ」




「北田く~ん……葵が変なのよう」
一週間。
紳士的な葵の態度に、さすがの千歳も音を上げた。
「どこからか、あの時の話が漏れたみたいですね。葵の報復でしょう」
秀一はまたも苦笑いし、両手を軽く上げてみせた。

さっさと降参したほうがいいですよ、と言うのだ。


「う~……やあよ、私は悪いことしてないじゃない」

机に突っ伏して唸る千歳。
その時、上機嫌な葵が教室に入って来た。
「お、千歳。まだ残ってたのか。もう外は暗いぜ?」
「あ、葵。そ、そうね、もう帰らなくちゃね」
「どうしたんだよ、ソワソワして。送ってってやるから、帰ろうぜ」

苦笑してみせる葵に、オドオドする千歳。
秀一は一瞬不思議そうな表情を見せるが小さく頷いて自分の鞄を手に取った。
「秀も帰るのか? じゃあ一緒に帰ろうぜ」
「いや、実はわぴこと寄りたい所があるんだ。出来たら、2人でね」


2人で、を強調した言い方に何かを感じたのか。
葵はふぅん、と意味ありげに答えると教室を出る秀一に手を振った。











「あ、……ありがとう葵」
帰り道、温かいココアを買って渡せば千歳は頬を染めて小さく言う。




そう、これは報復だった。
報復のはずだった。




この一週間、葵はわざと紳士的に振る舞った。
千歳がこういうタイプに弱いことを知った上で、自分の性格と正反対だと思うこの『葵』を演じたのだ。

しかし、実のところ葵自身も戸惑っていた。
確かに千歳は動揺しまくっていて、思う壺だったわけだが。

(……可愛い)


「っ! ああ葵……!?」
冷たそうだ、と思ったから手を握った。
そのまま自分のコートのポケットにねじ込む。
「手、冷てえな」
苦笑して見せれば千歳は頬を桃色に染めて俯いてしまう。

(……やっぱ、可愛いな)



優しくすれば、千歳は照れる。
意地っ張りな性格はそのままに、しかし反則だと思うくらいに可愛い反応を見せてくれたりもする。





そんな、端から見れば熱々でラブラブな2人の姿を少し離れた所から見つめている影が2つ。
「やっぱりね……」
「秀ちゃん、ちーちゃんと葵ちゃんてもしかしてラブラブ?」
「そうだね。今日千歳さんが言ってた事から考えて、もしやとは思ったけど……」
「なんて言ってたの?」
「北田くん、葵が変なのよ……でもそんな葵を見てドキドキしちゃう私も変なのよ……ってね」





「千歳」
葵はポケットに入れた彼女の手を、ぎゅっと握った。
千歳は驚いたように顔を上げる。
サングラスを外し、じっと千歳を見つめて。

「俺の負けだな」
葵は、優しく、だが思いきり千歳を抱き締めた。