『ライバルは君だ・5』
翌日。
放課後に、由宇はやってきた。
すかさず捕まえた秀一が、決闘方法についての提案を持ちかけて。
しぶしぶながら承諾は得られた。
くじはわぴこが夕べ作ったらしい。
「それじゃあ、ちーちゃん」
ハイ、と小さな紙袋をわぴこが千歳に差し出す。
決闘方法が書かれたメモがそこに入っているらしい。
結局当初の予定通りあみだくじにしなかったのは、他の候補が見えないほうがいいから、ということらしい。
「ちょ、ちょっと待ってわぴこ。ちゃんと説明してよ!」
千歳はそれを受け取らずに憮然として俺たちを見つめた。
まあ置いてけぼりになってるのは間違いないのだから、ここは怒ってもいい場面だとは思う。
秀一がひとつ頷いて
「とりあえず、千歳さんは物ではないので所有権を奪い合うという決闘にはできません。今回の決闘は、結果的には千歳さんには無関係だと言えます」
「無関係なのに私がくじを引くの?」
「無関係だからこそ、ですよ。結局のところ、彼……天川くんと葵の男のプライドをかけた決闘ということなので。くじを引く人間は無関係の人間が一番公平でしょう?」
「まあ……そう言われたらそうかも……?」
決闘の勝者は千歳をどうこうっていうのは俺が断固拒否した。
由宇は食い下がったが、千歳の気持ちを無視して勝手に俺のものだ僕のものだと言われて、それで千歳が喜ぶのかと言ったらさすがに顔色を変えたのだ。
よって、これは俺たちのプライドをかけた男の戦いということになる。
……こんなことしてるくらいならバーゲン行きてぇな……
「では改めて。お願いします、千歳さん」
「わかったわ」
わぴこの持つ袋に手だけを突っ込んでゴソゴソかき回してから、意を決したように千歳が息を吸い込んだ。
「えいっ」
掛け声と共に一枚の折りたたまれたメモが千歳の手で袋から取り出される。
いちいち大げさな、とは思うが今の俺はそれどころではない。
書いてある内容は俺も秀一も知らないのだ。
わぴこがどんなことを考えたのか、さっぱりわからないだけに恐ろしい。
「では……」
「わ、わたし見るの怖いから北田くんお願い」
千歳に手渡されたメモをゆっくりと秀一が開く。
緊張の一瞬だ。
「……なるほどね」
秀一は少し楽しげな色を含んだ声でそれだけ言うと、再びメモを折りたたむ。
そして、コホンと咳払いをして。
「本日はここまで、ということにしたいと思います。ここでどうにかなる内容ではなかったので。明日は休みですし、校門前に朝9時に集合してください」
「お、おい秀一、内容くらいは教えてくれてもいいだろうが!」
「そうよ北田くん、気になるじゃないの」
「ダメです。不公平になりますから。葵、天川くん、明日9時に校門前……忘れないようにね。遅刻した時点で負けになるからそのつもりで」
それじゃあ、また明日。
そう爽やかに言って俺たちの言葉はまるで聞こえないかのように
あっという間に秀一が教室を出る。
「おい、わぴ……」
「じゃあ、またねー! ばいびー!」
それならば作ったわぴこに、せめてどんなものが入っていたのかだけでも聞こうと思うが早いか、彼女も紙袋を手に凄まじい勢いで教室を出ていった。
「……なんなんだよ……ったく! くそ、秀一のケチ野郎~」
千歳は開いて見ていないから聞いても無駄だし、こうなってはここに残る意味もない。
やれやれと俺もカバンを手に教室を出る。
教室には呆然としたままの由宇と千歳が残されていたが、声をかける気にはならなかった。
わぴこの考えそうなこと、決闘になるようなもので、わざわざ日を改めないといけないこと。
考えながら家までの道のりをゆっくりと歩く。
秀一は少し微笑んだようだった。
なるほどね、と。
秀一の予想を裏切るものだったのは確かだ。