『ライバルは君だ・6』

 翌日の9時少し前。

俺はすでに校門前にいた。


すでに秀一とわぴこ、そして由宇もいる。


「葵ちゃん、はよ~ん!」
「おう」
「おはよう、葵。それじゃ揃ったことだし始めようか」
「なあ、千歳は来てないのか? 昨日の調子だと気になって見に来てそうなのによ」


あいつのことだ、集合時間と場所がわかってりゃ見にくるだろうと思ってたのに。


「千歳さんには来てはいけませんって言ってあるからね」
「へ?」
「ジャッジを下すのは千歳さんだよ」



秀一の言うことがイマイチよくわからない。
なおも質問責めにしようとする俺を手で制して秀一は笑った。



「はいはい、二人とも。今から決闘内容を言うから落ち着いて聞いて」


……落ち着いて聞いて?


由宇は緊張した面持ちでじっと秀一を見つめている。
落ち着いて、ってなんだ。
一体何が書いてあったんだ。



いぶかしむ俺を尻目に、秀一は俺たちの顔を交互に見つめた。
ええい、もったいぶるなっての。



「決闘の内容は……変装」











「………………はぁっ!?」
「………………なんだって?」



二人同時に声を上げる。




「変装だよ。自腹で、出来る限りの変装をしてもらう。今日の夕方18時に公園でジャッジ。査定基準はひとつじゃないよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。意味がよくわかんねえ」

「まあ落ち着いて。二人がお互いに自信のある変装をすればいいだけの話だよ。千歳さんに正体がバレたら負けとか、そういう基準じゃないし」

「北田さん、でしたっけ。基準は明かしてもらえないんですか」



由宇が秀一を睨みながら言う。
しかし俺もそこは気になるところだ。


変装っつっても色々あるわけで。


千歳を大笑いさせたほうが有利とか、そういうのはないんだろうか。




「厳密に言えば基準はちゃんとあるよ。完成度……ってところかな」

「完成度……?」

「そう。どういう変装をしても構わない。千歳さんが見てわからないようなものでも大いに結構。要はその変装の完成度の高さを競うってことだね」



……なるほどな。
見てくれだけじゃない、これは振る舞いなんかも要求されそうだな。
そうなってくると見たこともないキャラクターに変装したところで素人の域は出られないわけだ。


わぴこ…………お前の発想にはついていけんぞ……






「なるほど、わかりました。今日の18時までに変装を完成させて公園に行けばいいんですね」

「そうだね。自腹だから金額の上限はないけど、素材が高級であれば完成度が高いとみなされるわけじゃないことは先に言っておくよ」

「わかってます。……ぼくは負けませんよ」



ニヤリ、と笑ってもうここに用はないとばかりに去っていく由宇。
呆然と立ち尽くす俺。


「ずいぶんと自信がありそうだったね……」
秀一が顎に手をやってつぶやいた。






「つうか、変装……どーすりゃいいんだ? 探偵団じゃダメだろうし」

「それを考えるのは葵だよ」

「だいじょぶ、葵ちゃん。よく考えればすぐにわかることだから」

あぁ?
考えれば……わかる?

わぴこは、俺に有利な条件を出したってことか?




「さ、それじゃあ頑張って葵。また夕方に公園で会おう」

「ふぁいとだよ葵ちゃん! ばいびー!」





ひらひら、と。
手を振って二人を見送った。
無論、心ここにあらずな状態ではあったが。



考えればわかるとわぴこは言った。
それはつまり、間違わなければ俺に有利だということだ。








……わっかんねぇ。
変装ってなんだよ……