「会議なんてめんどくせーし、俺はセール行ってくるぜ」
今日も葵はわざと千歳を煽るように、口元に嫌味な笑みを浮かべて言い放つ。
千歳が「なんですってぇ!?」と返して、口論が激化して鬼ごっこが始まり…何故かクラスの大半を巻き込んだ鬼ごっこ大会になるのが常である、のだが。
今日の千歳は、いつもと違った。
呆れたように葵を見つめ、苦笑すると
「まったく、相変わらずセールが好きねえ。まぁ今日は予算についての会議じゃないし、仕方ないわね。とは言え葵もれっきとした生徒会役員なんだから、たまには参加して頂戴よ?」
などと言うのだ。
あまつさえ
「今日は冷えるから、風邪なんか引かないようにね」
と気遣いまで見せる始末。
葵は手に持った鞄を地面に落としたことにも気付かないほど動揺した。
「おい千歳、お前大丈夫か! …びびび、病院行った方がいいんじゃねえのか!?」
「失礼ねぇ、私は大丈夫よ。たまに心配したらこれだもの、やんなっちゃう」
平然と笑って返されて更に言葉を失う葵。
「はっ! さてはなんか企んでやがるな!?」
「はいはい、まぁ葵がいない間に猫印の紅茶とクッキーくらいは出るかもね~」
……なんだ、これは。
葵はサングラスを直したり、髪を触ったりと落ち着かない様子で千歳を見ている。
「行かないの?」
「……調子狂うぜ」
「もしかして連れがいるセールなの? だったら少しくらいなら付き合うわよ」
「……やっぱ、いい」
力なく項垂れて葵はとぼとぼと歩き出した。
「いいって、何が?」
追いかけてきた千歳の暢気な声が更に追い討ちをかけたのか、葵はどんよりした空気を背負ったまま振り向き、力なく返す。
「会議、するんだろ?……先に行っとく……」
葵が教室を出たあとのしばしの静寂を破ったのは、千歳の小さな笑い声だった。
わぴこが千歳に駆け寄って嬉しそうに言う。
「ねっ! ちーちゃん、わぴこの言った通りだったでしょ?」
「ホントねわぴこ。葵には怒鳴り散らすよりこっちの方が効きそうだわ」
二人の楽しそうな様子に秀一が苦笑する。
「大丈夫ですかね。葵のことだから、何か報復がありそうな気もしますが」
「大丈夫よ北田くん。私は別に嘘をついたわけじゃないもの。葵のペースに乗らない方がいいって悟っただけだもの。ねーわぴこ。でもシュンとした葵って新鮮よね~……ちょっと可愛いかもって思っちゃったわ」
上機嫌で話す千歳に同じく楽しそうなわぴこ。
明るい雰囲気のクラスにあって秀一だけは頭を抱えていた。
どっちにしろ、彼らに関われば波乱。
これが自分の宿命なのだと。