泡沫 2 (葵千歳、秀わぴ前提で秀一、葵、浅羽、北条)

クラスで喫茶店をやるんだと言う葵に誘われて行ったら、たまたまそこで浅羽君と北条さんに会った。

盛況だった喫茶店は満席で、仕方なく彼らと相席になり

休憩に入った葵も加えて四人で少し話をした。


折しも時期は受験を視野に入れ出す2年の秋。
自然とその話題になり、和やかなムードのまま気付けば携帯の番号を交換していたりして。

葵に三人で勉強を教えたり、四人で大学のオープンキャンパスに行ったり。




ただ、自然と仲良くなっていたと言いたい所だけど、僕らが対立しなかった大きな理由の一つに『葵が千歳さんと付き合っている』というものがあったかもしれない。


浅羽君は諦めがついたと、本当にすっきりした顔で笑ったし
北条さんも少なからず彼女を想っていたが吹っ切れたと明言した。
僕はといえば、その頃はわぴこと熱愛中で。


四人の間にあったわだかまりは、泡のように儚く消えた。
そして友情という新たな泡が生まれたのだ。


「秀一、わぴこさんとは最近どうなんだ?」
北条さんがニヤリ、としながら僕に問いかけてくる。
僕が触れられたくない話題と知ってわざと振ってくるあたり、彼の性格は変わっていないと思う。

「秀一は普段はポーカーフェイスだけど、わぴこさんの話題になるとすぐに顔に出るね」
浅羽君も悪戯っぽく笑い

「そういうとこ、不器用だよなぁお前」

葵も乗ってきた。


やれやれ、良い友人を持ったものだよ。


「相変わらず、だよ。わぴこが相手じゃ葵と千歳さんのようには行かないさ」

ちょっとした意趣返しだ。
僕も不敵に笑み、葵に意味深な視線を向けてやった。
案の定、葵は泡を食って目を白黒させる。


「ほう? 藤ノ宮さんと……何かな?」
「是非とも詳しく聞きたいところだね」
「た、高明! 広! この裏切り者ー!」

慌てる葵に満足して、僕は彼らに爽やかな微笑を向けて言ってやる。


「高明、広。実はね、この間千歳さんのお母さんがスイスから戻って来ていたんだよ」
「ほう……ではつまり、そういう事かな? なあ葵」

北条さんは僕の言わんとする所を察知し、楽しそうに葵に詰め寄る。

「秀一は相変わらず、食えないね……」

うまく矛先を葵に向けた僕に浅羽君が苦笑してきたから。

「頭は上手く使わないと、ね。広も覚えておくといいよ」

そう返して、二人で葵を尋問する北条さんの姿を見つめていた……。






人生は普遍的なものだ。


人の心も、あるいは普遍なのかもしれない。

けれど、努力があれば。
この心地よい関係を続けて行きたいという願いと意志があれば。


新たに生まれる泡沫は、より一層輝くのだと思う。

今の僕らより、もっと輝かしい僕らが生まれるだけの話。



捨てたものじゃないね。

儚いものは、こんなに美しい。

僕らが紡ぐ友情は、日々形を変えて。

こうして、輝き続けて行くのだろう。



「さて……葵、高明、広。そろそろお待ちかねのカラオケの時間だろ? 行こうか」


「お、おう! 歌いまくろうぜ」
「ふむ、追求はお預けだな。最近覚えたバラードを披露してやろう」
「また秀一と葵のデュエット聞かせて貰おうか。こないだの、良かったしね」


四人、微笑みながら店を出る。

浅羽君にじゃれつく葵と、笑いながら抵抗する浅羽君を見ながら

僕と北条さんは顔を見合わせて吹き出したのだった……。





(了)