泡沫(葵千歳、秀わぴ前提で秀一、葵、浅羽、北条)

行く河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず
よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし
世の中にある人もすみかも、またかくのごとし

たましきの都のうちに、棟を並べ、甍を争へる、高き、いやしき人の住まひは、世々を経て尽きせぬものなれど、これをまことかと尋ぬれば、昔ありし家はまれなり






思えば人生なんてものは、常に普遍的なものなのだと思う。
朝に死に、その夕に生まれるならいは正に泡沫に相違ないと言った鴨長明の言葉には、少なからず共感を覚えたものだった。


ただ、理解することと実感することは別物だと思う。


例えば、今の僕が置かれている状況を客観的に見たならきっと、古き泡が消えた傍で新しき泡が生まれ、川の中を踊るように流れている所なんだろう。


その渦中にいる僕らは、今まで気づかなかったけれど。




「北田くん、どうかしたのかい?」

向かいの席でカフェオーレを飲んでいる浅羽君が不思議そうな顔で僕を見つめる。
するとその隣でブラックコーヒーを同じように飲んでいた北条さんがチラリと僕の方を伺い、小さく息をついた。


「秀一のことだ。おおかた、昔に思いを馳せていたんだろう。遠い目をしていた」

その表情には柔らかい笑みが浮かんでいる。

「だよな。僕らがこうして一緒にお茶を飲むような仲になるなんて、考えもしなかった……とか考えてたんだろ」

隣でコーヒーを弄びながら葵が笑う。



僕は苦笑してそれを肯定した。




大学2年の春。
休日は、僕らの会合の日。

北条さんや浅羽君と、葵と僕でコーヒーブレイク。
これが習慣になってもう、どれくらい経つだろう?



「まぁ、中学生の頃には考えもしなかったのは確かだね」

北条さんも少し遠くを見つめるようにして同意を見せ、浅羽君は少しバツが悪いのか苦笑いで頬を引っ掻いて。

「僕も無茶ばかりしたものだよ。葵には今でも頭が上がらないよ」

「馬ッ鹿、そんなのもう時効だろ広……まぁ確かにあの頃はお前のせいで酷ぇ目にも遭ったけとな」

葵が笑顔で浅羽君の頭をポンポンと叩くと、浅羽君も笑う。


僕らがこんな関係になったのは、ある事件がきっかけで ――― なんて言うとドラマチックでいいんだけど、悲しいかな現実はそう上手くは行かない。
きっかけは高校の文化祭だったかな。