- THE FOOL - 4

千歳のベッドの脇に椅子を置き、それに腰を下ろして腕を組む。
ブツブツと独り言を吐き出しつつ、千歳の額に乗せた濡れタオルを手に取る。

「あ、もう温いな」
持ってきていた洗面器(勝手にバスルームを覗いて失敬した)に張った氷水にそれをつけ、ぎゅっときつく絞ってまた千歳の額に乗せた。
そしてまた考える。

「うーん……ギャーギャーうるせえコイツは正直言って面白いけど好きじゃねえ、よな? うん。しつっこいからな。でもなー、食いついて来なきゃ来ないでもっと面白くねえし……そもそもこの俺様のいたずらに食いつかねー千歳なんて好きじゃねえなぁ……」


思考の螺旋に駆け足で入り込んで行く葵。

「こいつはこう、アレだ……おしとやかーにしてても可愛くねえ。うん。俺のことを追っかけ回してる時の表情とかのがずっと可愛いよなあ。俺に迫られてドギマギしてるとこなんかかなり可愛いよな、うんうん」


葵自身、もはや思考が口に出てしまっていることに気付いてすらいない。


「そーだなぁ……俺のいたずらでオロオロしてる千歳とか、いいな。たまーに強気な態度を取るコイツも、悪くねえ。落ち込んでるコイツは……んー、見たくねえな。……喜んで笑ってるコイツはまあ、可愛くていい。けどその顔のまま他の奴の方は見てほしくねえな。……うん。あー何だ? 何でムカつくんだ?」

思考の螺旋。
それはかなりの深さを誇るようで、葵はいよいよ真剣に悩みはじめた。

「……コイツの喜ぶ顔は好きだ。けど他の奴には見せたくねえ。だからわざと怒らせる。怒らせればコイツは俺だけを見て、俺だけを追いかける。……だけど哀しい顔はさせたくねえから、程々のとこで煙に巻いちまう。そんで、コイツの楽しそうな顔も見たいから、わぴこと一緒にイベント考えたりする。……………………………………あれ?」



出口が見えた気がした。
確かに、僅かな光が。



「……どうしたら、コイツの喜ぶ顔も、怒った顔も、俺だけのもんになるんだ? 哀しい顔をさせずに済むんだ? どうしたら、一緒に楽しく笑って過ごせるんだ?」



自分で自分を追い詰めていること。
葵は気付いていた。
出口の先に何があるのか、葵は知っている。