「千歳が好きだから、全部が欲しかった。千歳が好きだから、俺は、自分に言い訳をしてまでコイツに関わった」
――― 力が抜ける。
何てことだ。
自ら、出したくなかった結論を導き出してしまった。
「俺って……」
「馬鹿よ、底抜けに馬鹿」
続きをどうも、と抜けた返事をしかけて葵は凍りつく。
ギ、ギ、ギ……と音でもしそうな程ぎこちなく、葵は声のした方へ顔を向けた。
もちろん、この部屋には自分と千歳しかいないことは承知しているが。
それでも、つい確かめてしまうのは悲しい習慣と言うべきか。
視線を落とした先には、熱に浮かされているせいだけではないだろう、真っ赤な顔をした千歳。
その瞳は潤み、揺れていて何とも可愛らしい。
こういう顔も、見たかったんだよな……等と、この期に及んで的外れな事を考えている自分自身に呆れた。
「あーそのー……何だ。まぁなんか、そういうことらしいぜ?」
「何、他人事みたいに言ってるのよ。病人の枕元で散々愛の…………ごにょごにょ」
「愛の告白」
「言わんでいいっ!!」
ずべしっ!!
生暖かいタオルが顔面を直撃した。
沈黙。
とても気まずい沈黙。
しかし葵の頭はフル回転していた。
そう、「いかにしてこれからの千歳を悪い虫から守るか」という大問題について。
ぽんっ。
向日葵の花でも背後に咲かせそうな程、それはもう晴れやかな表情で葵は手を打った。
「千歳! 俺と結婚しろ!」
――― 今度は、洗面器が飛んできた。
~ Fin ~