- THE FOOL - 5(完)

「千歳が好きだから、全部が欲しかった。千歳が好きだから、俺は、自分に言い訳をしてまでコイツに関わった」



――― 力が抜ける。
何てことだ。
自ら、出したくなかった結論を導き出してしまった。


「俺って……」
「馬鹿よ、底抜けに馬鹿」

続きをどうも、と抜けた返事をしかけて葵は凍りつく。
ギ、ギ、ギ……と音でもしそうな程ぎこちなく、葵は声のした方へ顔を向けた。
もちろん、この部屋には自分と千歳しかいないことは承知しているが。
それでも、つい確かめてしまうのは悲しい習慣と言うべきか。



視線を落とした先には、熱に浮かされているせいだけではないだろう、真っ赤な顔をした千歳。
その瞳は潤み、揺れていて何とも可愛らしい。

こういう顔も、見たかったんだよな……等と、この期に及んで的外れな事を考えている自分自身に呆れた。


「あーそのー……何だ。まぁなんか、そういうことらしいぜ?」
「何、他人事みたいに言ってるのよ。病人の枕元で散々愛の…………ごにょごにょ」
「愛の告白」
「言わんでいいっ!!」

ずべしっ!!

生暖かいタオルが顔面を直撃した。



沈黙。
とても気まずい沈黙。

しかし葵の頭はフル回転していた。

そう、「いかにしてこれからの千歳を悪い虫から守るか」という大問題について。




ぽんっ。
向日葵の花でも背後に咲かせそうな程、それはもう晴れやかな表情で葵は手を打った。


「千歳! 俺と結婚しろ!」



――― 今度は、洗面器が飛んできた。



~ Fin ~