- THE FOOL - 3

ミギ、ヒダリ、カイダンアガル、ヒダリ、ココ。

どこの外人かと思うような、見事なカタコト。
不謹慎だとは思っても、ついつい口元が笑みの形に歪んで行くのを止められない。



両手が塞がっているので千歳の手でドアを開けさせ、部屋に入った。
(う~ん、これまた予想通りっつーか……)

お嬢様の部屋と言えば、どんなの? と聞けばまず最初に出てくるような、天蓋付きのふわふわなベッド。
小ぶりながら高級感漂うシャンデリアに、ゴージャスな絨毯、大きなクマのヌイグルミやウサギのヌイグルミ。
……さすがに牛は無いようだが。


「よっと」
そっと千歳をベッドの上におろし、葵は腕を回した。
いくら体力に自信があるとは言え、人間ひとりを抱えて2階まで上がるのは少々骨だ。
「んじゃ寝てろよ? 台所使わせてもらうからな~」
言いたい事だけ言って、葵は早々に千歳の部屋を後にする。
文句を言われる前に逃げておかないと、正気に戻った千歳はやはり面倒だったので。



――― その後、苺を持って部屋に戻れば千歳はしっかり眠っていて、僅かな罪悪感を持ちつつも心を鬼にして彼女を起こし。
食欲がないと言う千歳を叱咤して苺を食べさせ、薬を飲ませ。



(こんなにちゃんと誰かを介抱したことってねえなぁ)


再び眠りについた千歳をまじまじと眺めながら、葵は感慨深く溜め息をついた。


(いつもこれくらい素直だったら可愛いのになぁ)


普通にサラッと思った内容に、ワンテンポ遅れて葵は首を振る。
「だーれが! 可愛いっつうんだよ!」
慌てて自分にツッコミを入れるが、ただひたすらに空しかった。


「……何だろなー。大人しいだけの千歳は確かに可愛いかもしんねーけど、な~んか物足りねえ気がするな。かと言って口うるせー千歳も面倒だし。……いやまあ、面白えけど」