- THE FOOL - 2

(どう見ても電話してきた時の元気はない、よな)
電話口で口論ができる程には元気だったはずの千歳が今や虫の息と言っていいほどに衰弱しきっている。
葵はのんびり準備などして、不承不承ながら家を出た自分が情けなくなった。


「ほら、頼まれてたモン。牛乳と、氷と、軽く食べられそうなもんをいくつか。ああ、あと苺も買っといた」
「あ、うん……ありがと……お金、返さなきゃいけないわね」

手に持ったスーパーの袋をつき出すようにして言うと千歳はおぼつかない足取りで財布を取りに行こうとする。
葵は慌てて千歳の腕を取った。
「そんなもん後でいいから、寝てろって!」
「え……でも」
「でもじゃねえ、そんな状態でウロウロしてたら治らねえぞっ」


握った腕の熱さに驚きながらも葵が千歳を支えて真剣な眼差しで見つめると、千歳は困ったような表情で少し考えたが首を縦に振った。
それを満足げに見つめ、葵は玄関のドアを振り返りきっちりと施錠する。




「そういや薬は飲んだのか?」
「……まだ……」
「まだぁ!? 治す気あんのかよ」
「だって、何も食べていないもの……お腹空っぽじゃ飲めないわよ」


少しふくれてそう言われ、葵は納得した。
そうだった、だから差し入れを頼まれたのだ。

「あー、そうだったな悪りぃ、遅くなっちまって。とりあえず苺ならすぐ食えるだろ、洗って持ってくから部屋で寝てろよ」
「わかっ……た……ありがと……」

そんなやりとりをしている間にも、千歳はみるみる元気が無くなって行く。
葵は焦った。

これはもういつ倒れてもおかしくない。


「……非常事態だ、仕方ねえ」
「何が非……きゃああ!」

言うが早いか、反論する暇など与えるものかとばかりに葵は千歳を抱き上げた。

千歳は何やら驚き固まってしまったようで、暴れるかと思っていた葵は苦笑する。

「暴れたら落ちるぜ。で、部屋どこだよ」

一応、釘をさしておいて本題に。