にほんごってむずかしい 6(了)

 大声で叫んでしまってから私は我に帰る。

待って、頭が混乱しちゃってる。

私の「隙あり」が中途半端になって「すき」になったのよね。
そしてそれを聞いた葵が勘違いして。

でもその後、葵は私を好きだと言って。


信じたい、私がいる……?
でも、葵はイタズラに情熱を注ぐような人じゃない。
信じて恥をかくのは私じゃない。

「嘘でしょう? そうやって私をからかうつもりなんでしょ!?」

そう言えば、きっと「ばれちゃあしょうがない」とかって笑うのだと。



思ったのに。


心外だという表情で葵は。

「こんな嘘つけるか!」
なんて言うんだもの。
「だ、だ、だ、だって! そんなそぶり一度もなかったじゃない!」


今まで「付き合ってくれ」ってさんざん私を騙したじゃない。
……でも、そういえば

付き合ってくれ、っていうのを勘違いしたのは私なのよね。
あれは「買い物に」とも取れなくはないわ、確かに。

じゃあ今回は?


「しょうがねーだろ、今気づいたんだから」
葵が口を尖らせた。

「……だって、そんな……」

私は困惑してしまう。
だって、ねえ



ねえ、どうして私はほっとしてるのかしら。
葵の嘘じゃないんだとわかって、どうして私はうれしいのかしら。


「なあ千歳」
葵が真顔で言う。
「な、何よ」
「抱き締めていーか」

なんてことを真顔で言い出すのよ!!

「ななななな、さっきはいきなり抱き締めた癖になんで今更聞くのよ!」
ほら、噛み噛みになっちゃった。
「いやーほら、さっきは勢いで……ちゃんと意識したら、無茶できなくなったっつーか」
さらりと言ってのける葵はやけにスッキリした表情で。

その顔をみたらなんだか一人緊張してるのが馬鹿馬鹿しく思えてくるのが不思議だわ。
「何ソレ……」

ほんと、大物だこと。

でも意外。
わざわざ、抱き締めていいかなんて聞く人だとは露ほども思わなかった。

「で、いいのか?」
「き……聞かないでよ、余計に恥ずかしいじゃない」

このままだと、キス……のときも聞いてきそうで困るわね……

なんて、葵とキスするところを想像しちゃってまた顔が熱くなる。
でも嫌じゃなくて。
ドキドキするけど、たまらなく嬉しい自分がいたりして。


ああ。
私も葵のこと言えないじゃない。
今頃気づくなんて。

恥ずかしくなって目をそらせば、性急に葵が私を抱き締めた。
苦しいくらいに、抱き締められて。
それでもとても嬉しくて。

私は観念して、葵の背にそっと手を回した。


もぞ、と葵が身じろぎして私の顔を覗き込む。

「俺、お前と一緒の学校に行くぜ」
「え?」
「だって、これからずっと一緒に居たいだろ?」

ニッと笑ってそう言った葵は本当に素敵で。
こんな素敵な人に愛されているんだと思ったら、言葉にできないくらい幸せな気持ちがあふれ出して。


だから、そうねとだけ呟いて私は葵の胸に顔を埋めることで、I Love You、と答えた……。




今度は、気付いてよね?







(了)