きん注(葵×千歳) Wake up,Sleeping beauty 5

唇を離すと同時にゆっくりと開かれて行く千歳の瞳を見て、葵はホッと胸をなで下ろした。
良かった、千歳が目を開かないままでいてくれて。
結局のところ、直前で目を開かれていたとしても……
(吸い込まれそうだ)
こうやって。
濡れた瞳に引きこまれるように。
唇を重ねてしまっていただろうから。

「……っ」
二度目のキスは、先程より少し強く唇を押しあてた。
千歳のやわらかな唇の感触に、葵は目まいすら感じる。
ガチガチに固まる千歳の肩をそっと撫でてやりながら、ゆっくりと唇を引いた。
顔を少し上げて、葵の口付けを受け止めていた千歳と真っすぐに視線がぶつかる。
「言っとくけどな、冗談や嫌がらせじゃねえからな」

こくん。
無言で千歳がうなずく。
これは、月の魔力というやつだろうか。
千歳に殴り飛ばされるくらいの覚悟はできていたのだが。

少し体をずらして、ベッドに腰かけると千歳も黙って隣に腰かける。

どちらも何も言わず、月光を背に床を見つめる。
高級そうな絨毯が敷かれているベッドの周り。
とは言え、ここに座り込んでいたのだから、さぞ体が痛いだろうなと、葵は千歳を見た。
「どれくらい眠ってたんだ、俺」
「えっ」
いきなりの言葉に、千歳は面食らったようだったが枕元のデジタル時計に目をやって驚いた表情になる。
「6時間……くらいね」
言われて葵も慌てて時計を見る。
22時過ぎ。
「葵が目覚めないからってここへ運びこんでもらったのが多分18時くらいだったから……私も4時間くらい眠ってたのね」
――― 4時間。
あの無理な姿勢で4時間も眠れる、というのは……
「お前も生徒会やら理事長の仕事で疲れてたのか……」
「……べ、べつに……そういうワケじゃないわよ」
フイと目をそらしながら言う千歳。
素直じゃねえな、と思いつつも、今の自分の変化を心地よく思う。