きん注(葵×千歳) Wake up,Sleeping beauty 4

ピクリ、と千歳の睫毛が震えたのが見えた。
葵は確信する。千歳は少し前に目を覚ましているはずだ。
おそらくは呼びかけたあたりから。
(体に力が入ってるぜ千歳。お前、演技下手だなあ)
声には出さずに笑って、頬をなぞる指を少しずつ上げる。

サラリと指に優しい感触を伝えて、千歳の前髪が流れた。
何度か繰り返し髪を撫でて、葵は動きを止めた。

「俺はもう気付いて、過去の自分と決別したぜ。ガキみてえなやり方は、もうヤメだ」

あえて聞かせるように、はっきりと葵は言う。

「もうごまかす必要がなくなっちまった。お前のせいでキッチリ自分の気持ちに気付いちまったからな」

ぴくり。千歳の肩が小さく揺れた。

「だから、泣くな。泣かせたいわけじゃねえって言ったろ」
再びあふれる涙を指で拭ってやりながら、苦笑する。

「……千歳」
往生際が悪いな、と思いつつも少しのいたずら心が首をもたげて来て、葵はわざと千歳の顔に口元を寄せて囁いた。
「起きてんだろ? 10秒以内に目ぇ開かないなら……キスするぞ」

その瞬間、大きく千歳の体が跳ね上がった。
しかし、その目は開かない。
心の中でカウントダウンをしながら、葵はゆっくりと体を折り曲げるようにして千歳に顔を寄せる。
(いつ起きる? あと5秒)
4、3、2……
わずかに朱がさしたように見える千歳の頬に手をそえて。
あと1秒 ――― いいのか? と無言で問いかける。

千歳の瞳は開かない。
ここで止めてやれる程、自分は大人じゃない。
そう言い訳をして。
葵はそっと千歳の唇に自分の唇を押しあてた……。