きん注(葵×千歳) Wake up,Sleeping beauty 2

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最初に思ったのは「何て暗さだ」という事。
葵は柔らかなベッドの中で目を覚ました。
(あれから何時間経ったんだ? ここは……俺の部屋じゃねえよな)

ふと目の端に光を感じ、そちらを見やると見事な満月が雲間から顔を覗かせていた。

「……今、何時だ……」
体を起こそうとして、何かが邪魔した事に気付き振り向く。

息をのんだ。
銀の月光に照らされ闇に浮かび上がる金色の髪。蒼白い肌。長い睫毛。整った顔立ち。
「……千歳!?」
葵の寝かされたベッドに突っ伏して眠っていたのは千歳だった。
何故コイツがここに、と考えて。いや待て、まずここは何処だ、と考える。
そう言えば今、自分が何処に居るのかすらわからなかったのだ。

千歳を起こしてしまわぬようにゆっくりと体をずらし、ベッドの上に身を起こす。
闇に慣れた目で、月明かりを頼りに部屋を見渡してみる。
見覚えはなかった。
しかし、葵はここがどこなのか理解して呆れかえる。
月光の届かない先にドアがあるのだろう。
それほどの広さの部屋を持つ人物は、葵の知る限り一人しかいない。

(千歳の家か……)
馬鹿らしい程の広さだな、と思いながらもう一度眠る千歳に視線を落とす。

違和感を感じた。
それが何なのか、葵にはわからない。
いつもの千歳とは何かが違うと、そう感じたのだ。
「何だ……?」
首を捻りながら、そっと千歳の顔を覗き込む。
そして葵は気付いた。
千歳がひどく苦しそうな表情で眠っていること。
痛々しいほど眉を寄せ、今にも泣きそうにも見える。
いや、泣いていたのかもしれない。

(こんなに気にすると思わなかった)

階段から落ちて見せて、足をひねったように見せかけて。
しばらくコキ使ってやろうか……とか。
いっそ、記憶を失くしたようなフリをしてやろうか、とか。
そんな事を考えていたのだが。

「……かな……で」
千歳が小さな声で何か言ったので、葵は飛び上がる程驚いた。
起きたのかと、じっと見つめてみるがその瞳は一向に開かない。
かわりに、先程よりしっかりした声で、千歳が呟いた。
「行か、ないで……葵」