キスをしよう! 59

 お泊まり会から数日後、私たちは学内にある映研の部室にいた。



今から、最後の撮影に向かうのだ。

実は前回の撮影からはかなりの日数が空いた。
その理由は、部長のこだわり。



「よおし、皆! 準備はいいなっ!?」
「おーっ!!!」

部長の声に、全員が気勢を発した。

外は土砂降りの雨で、カメラもスタッフも完全防水仕様だ。


土砂降りの雨の中のシーン。
小道具で雨を作り、コンピュータグラフィックで空の色を変える案もあった。
けれど、部員の誰もがそれを良しとはしなかった。

無論、私と葵も。



もう、すっかり演劇馬鹿ね、私も。



「行こうぜ、千歳。俺たちの集大成だ」
「ええ。最高の演技をしましょう」


私たちは笑顔でハイタッチをして、部室を出る部員たちに続く。

ちょうど空は真っ黒な雲に覆われていて、大粒の雨が校舎の屋根を叩いていた。
待ちに待った雨。
台風ではダメだった。風は要らないのだ。

夕立を待ち続けた数日間。

やっと巡って来たチャンスだ。
今を逃せば、次はない。




――― ぱんっ!



私は両手で頬を叩き、視線を上げた。

一度きりだ。

失敗して、髪や服を乾かしている暇はない。

――― ただひとつのチャンス。



「気負うなよ?」
「葵こそ」


強気な笑みで短く言葉を交わして。




「 ――― ッタート!」

部長の声と共に鳴らされた、カチン!! というクラッパーボードの音で、私は雨の中へと走り出した。