お泊まり会から数日後、私たちは学内にある映研の部室にいた。
今から、最後の撮影に向かうのだ。
実は前回の撮影からはかなりの日数が空いた。
その理由は、部長のこだわり。
「よおし、皆! 準備はいいなっ!?」
「おーっ!!!」
部長の声に、全員が気勢を発した。
外は土砂降りの雨で、カメラもスタッフも完全防水仕様だ。
土砂降りの雨の中のシーン。
小道具で雨を作り、コンピュータグラフィックで空の色を変える案もあった。
けれど、部員の誰もがそれを良しとはしなかった。
無論、私と葵も。
もう、すっかり演劇馬鹿ね、私も。
「行こうぜ、千歳。俺たちの集大成だ」
「ええ。最高の演技をしましょう」
私たちは笑顔でハイタッチをして、部室を出る部員たちに続く。
ちょうど空は真っ黒な雲に覆われていて、大粒の雨が校舎の屋根を叩いていた。
待ちに待った雨。
台風ではダメだった。風は要らないのだ。
夕立を待ち続けた数日間。
やっと巡って来たチャンスだ。
今を逃せば、次はない。
――― ぱんっ!
私は両手で頬を叩き、視線を上げた。
一度きりだ。
失敗して、髪や服を乾かしている暇はない。
――― ただひとつのチャンス。
「気負うなよ?」
「葵こそ」
強気な笑みで短く言葉を交わして。
「 ――― ッタート!」
部長の声と共に鳴らされた、カチン!! というクラッパーボードの音で、私は雨の中へと走り出した。