キスをしよう! 57

 先程とは一転、楽しそうに笑いあう二人の元へコーヒーを運んで、私達も席についた。
二人も私達が気をきかせた事に気付いたのか、はにかみ。

「おめっとさん」

葵のさりげない祝辞に、照れた。



――― と。
葵が意味深な笑みを浮かべ、北田くんをじっと見つめる。
そして、それを挑むような不敵な笑みに変え、口を開いた。

「お前あの時、わざとだろ?」

すると北田くんもニヤリと笑みを返し。

「葵こそ、僕らが聞いてるの知ってて言ったんだろ?」




「……何の話?」

私はわけがわからず、二人を交互に見ながら尋ねた。
あの時って、いつ?
二人にはわかっているみたいだけど。


「前回のお泊まり会の時だよ。俺がわぴこに言った好きな女としか一緒に寝ないってやつ、お前ら聞いてただろ?」
「なっ!」

バ、バレてたの!?

「秀の奴、わざと俺に揺さぶりかけやがってよー。あれだ、千歳のことが好きだったって言ってた」

そう言えば、北田くんが突然愚痴を聞いて欲しいと言い出したのよね……あれは、葵たちに聴かせる為だったの?


「何それ、わぴこ知らないよー!」
「そりゃそーだ、俺がお前の耳を塞いでたんだから」
んべ、と葵が舌を出してみせた。
「俺があんな辛い思いしてんだ、秀に簡単に……それもあんな他力本願な告白させてたまるかよ。きっちり自力で告白しやがれっての」
「全く、本当に食えない男だよお前は。部屋に入って来た時の顔で葵が妨害したことは明らかだったしね。自分はしっかり千歳さんに聞かせたくせに」

北田くんは苦笑して、あたたかいコーヒーに手をつける。
葵はと言えば、しれっと視線を反らして
「千歳なんだから、あんなもんで気付くわけないだろ? ハンデだよハンデ」
なんて言っていて。



 私とわぴこは視線を交わし、頷き合うと ―――


「あいたたたたた!?」
「いってー!? 何しやがんだ千歳っ!?」


隣の愛しい人の、耳朶を目一杯引っ張ったのだった。