「ちーちゃん、おかわりー」
「いいけど太るわよ?」
私と葵で作ったケーキは大好評だった。……わぴこに。
ちなみにクッキーはとうの昔に平らげられた。北田くんまでもが結構な勢いで食べていたから、よほどよく出来ていたのだろう。
ケーキはシフォンケーキを焼いたのだけど、わぴこの「おかわり」はこれで5回目なのよね。
「な。多めに焼いといて正解だったろ」
「ほんとね」
最初は葵の言葉を疑ったけど、信じてたくさん焼いておいて良かったわ……。
わぴこは今、ソファに座って北田くんと一緒に映画の台本を見ている。
ケーキを食べながら、器用に。
私も一緒に、と思ったのだけど、何故か葵に止められた。
「気付いてやれよ、お前も」
私をキッチンに引き戻し、葵がこっそり耳打ちしてくる。
「何をよ?」
葵は必要最低限、さえも言わないことがあるのよね。
聞いても葵は答えてはくれないし……私は困り果てて、チラリとソファに並んで座る二人を見つめて ――― 気付いた。
楽しそうにしているけど、どこか陰のあるわぴこの笑み。
台本を見つめる北田くんに向ける、視線。
「……あ」
そう……そうだったのね。
わぴこも、北田くんのことが……。
「秀の奴も気付いてる。ここで決めさせてやんねーとな」
葵が少し微笑んで言う。
そうね。私たちが少しだけ、背中を押してあげなきゃ。
でもずっとここにいるわけにも行かないし……そうだ。
「あら、もうみんな飲んじゃったのね。葵、コーヒー入れるの手伝ってよ」
「いいぜ」
キッチンにもう少し居るための「理由」を見つけた私の行動を理解してか、葵も二つ返事で付き合ってくれる。
先程は紅茶だったから、今度はコーヒーにしましょうかと私が棚からインスタントコーヒーの瓶を取り出せば、葵はキッチンから首を出して。
「おーいわぴこ、お前砂糖いくつだー?」
「……ふぅ」
「どうしたわぴこ? コーヒー苦手か?」
「葵ちゃん、男って鈍いよねぇ」
「……はぁ!?」
「なんでもないよ~ん。コーヒーはお砂糖一杯いれてねー」
リビングを覗いていた葵が振り返って私を見る。
私達は、同時に吹き出した ――― 。