キスをしよう! 55

 今回は、わぴこが気をきかせて早めに電話をくれたので、前もって準備をすることが出来た。
撮影のスケジュールが立て込んでいることを考慮してくれたのだろう。


結局、北田くんの予定も含めて決まった日程は8月のお盆休みだった。



 私は数日前から自宅の掃除に取り組んでいる。
葵も手伝ってくれて、今回はかなり片付いた。
そう言えば、あれから何度か北田くんとわぴこが大学に遊びに来たのだ。練習の風景を見てみたい、とわぴこが北田くんを誘ったらしい。


……ちなみに、私が葵と付き合いだしたことは、二人にはもう話してある。二人とも自分のことのように喜んでくれて、私は涙を堪えられなかった……。


「よーし! 今回は余裕だな!」
葵がホウキを手に、満面の笑みを浮かべる。
お泊まり会は2日後。
部屋は全て片付いた。

「時間に余裕が出来ちゃったわねー。明日はケーキでも焼いてみましょうか」
リビングで紅茶を飲みながら、私は料理雑誌をペラペラとめくる。
前回はカレーだけだったけど、今回はもう一品くらい作る余裕があるし。

すると葵は頭の後ろに手を組んで椅子にもたれかかり、そうだな~と思案した。

「ケーキと、クッキーなら同時にいけるだろ」
「そうね! なら、明日はお菓子作りね」


私はわくわくしながらページを繰る。
何を作ろうか。
わぴこはお菓子が大好きだから。
北田くんは……何が好きなのかしら。


「楽しみね」
「ああ。びっくりするくらい、美味いやつを作ってやろうぜ」


微笑みかけると返ってくる微笑みは、以前より優しい。
幸せで、思わず見とれていたら。


葵は黙って、キスをくれた ――― 。