慌ただしく、しかし平穏に月日が過ぎて
7月。
いよいよ、撮影も残りが少なくなってきて。
私はひとつ、大きな苦痛を感じるようになった。
「……あ~つ~い~……」
「藤ノ宮さん、あと少しよ! 頑張って!」
「葵! こんな所で寝てる奴があるかっ」
「寝てんじゃねー……倒れてんだ、助けろ……」
――― 暑さだ。
文化祭が秋なのでかどうかは知らないが、物語の主要な部分はその舞台背景が秋。
木々はコンピュータグラフィックで紅葉させるらしいが……私たちは、長袖着用なのだ。
スケジュールの調整はしてくれているので、場面の数はさほど多くはないのだが……
陽の当たるシーンは、かなりの苦痛。
「よーし! 10分休憩!」
メガホンを握っていた部長が大声で言うと、全員がクーラーボックスに駆け寄った。
氷が浮かぶそれはなんとも魅惑的に露を滴らせていて。
……ああ、頭から突っ込みたい。
「頭から飛び込んでいーか」
「やめんかっ! 誰か葵を止めろー!!」
……考えることまで似てきたのかしら。
言わなくて良かった。言ってたら間違いなく冷やかされてもっともっと暑くなってたわね……
私は密かに苦笑して、差し出されたスポーツドリンクを一気に飲んだ。
――― と。
ピルル、ピルル、ピルル。
どこからか携帯の呼び出し音が聞こえる。
遠くで聞こえるようなそれは、何故か聞き慣れたもの。
ぼんやりしていると、葵がツンと私の頬をつついた。
「千歳、お前のじゃねえ?」
「……そうだわ!! は、はいはいっ、もしもし!?」
大丈夫かしら、私。
暑さでかなりボケてるわねぇ……
「ちーちゃん、わぴこだよー!」
電話の向こうからは夏バテとは無縁な、元気いっぱいの声。
「あら、わぴこ。どうしたの?」
あれから、かなりの日数が過ぎたから。
そろそろ電話が来る頃かしら、とは思ってた。
「お泊まり会、しよーよ!」
――― ほら、ね?