ルルーの活躍もあって、式は滞りなく済み。
今は披露宴。
満身創痍のサタンもさすがに諦めがついたのか、大人しくルルーに食事を食べさせてもらっている。
……両腕を釣っているので何も出来ないのだ。
「さば折りかな……」
ポソリ、とラグナスが呟いた。
「腕ひしぎじゃありません?」
ウィッチも呆れたように呟いた。
「それでは、友人代表のスピーチをお願いします!」
司会の声が響き、ふわりとマイクの前に立った人物を見て。
誰もが戦慄しただろう。
「誰だスピーチにハーピー選んだのはー!!」
シェゾがマイクを奪おうと立ち上がり、叫びながら走るも時既に遅し。
「ハ~ラ~ホ~ロ~ヒ~レ~ハ~レ~♪」
とてつもない破壊音波が会場に響き渡ることとなった……
その後はもう、やはりいつも通り。
調子に乗ってパノッティが16文キックで会場を穴だらけにし、ぞう大魔王とミノタウロスが片っ端から料理を平らげ、のほほやもももなどは商売をはじめ、キキーモラが必死で掃除をするも片付かず逆ギレ、サムライモールと一騎討ちになだれこんだり……
「若いもんは元気でいいのう」
スケルトン-Tがアルルとシェゾの所へ来て、ずずっとお茶をすする。
「なーす」
控え目に跳ねるナスグレイブも、一応祝福しているのだろうか。
「アルル、カーくんが寝ちゃったんだけど……起こす?」
ドラコが鼻提灯を膨らませて眠る黄色い物体を持ち上げて見せると、シェゾが口を挟んだ。
「今それを起こすな、更に収拾が着かなくなる」
「それもそうだね。あ、ねえウィッチは?」
アルルがもう一人の友人を探すが、会場内に姿が見当たらないのだ。
ドラコケンタウロスは言いにくそうに頭をかいて、視線を泳がせた。
「いやぁ……それが、なんかラグナスといい感じになってるみたいでさ……テラスにいるんじゃないかな」
「ほう、あの馬鹿ようやくアルルを諦めたか」
シェゾは嬉しそうだ。
ラグナスはある意味、サタンより手強いライバルであった。
紳士で優しく、常識もある。
ラグナスに戦いを挑めばどう考えても自分が悪者だ。
ゆえにシェゾはラグナスが苦手だった。
「まあ、あのサタンですら諦めたんだからね。言っとくけど、アルルを泣かせたら許さないからね?」
ドラコケンタウロスの言葉にシェゾは顔をしかめる。
「その台詞はもう聞きあきた……お前で何人目だと思ってる」
疲れましたと言わんばかりのシェゾに、辺りにいた全員が吹き出した。
でもね、とアルルがシェゾに寄り添った。
「今日がこんなに清々しい晴天ってことは、サタンも祝福してくれてるんだよ。きっとね」
一人、会場を後にした魔王は一度だけ。
会場を振り返り。
暮れ行く空に視線を移した。
「この箱庭を飛び出せる翼……運命を作り変えることの出来る存在……そなたらに訪れる平穏な、しかし永遠に繰り返される季節を……受け止めることが出来るか? やがて時は満ちる……その時まで、せめて刹那の新婚生活を楽しむことだ……出来るならば気付いてくれないといい……」
男の小さな呟きは風に浚われて消え。
彼は、追いかけてきた青い髪の麗しい女性と腕を組み歩き出した ―――― 。
(了)