※翡海さんから結婚式バトンを頂きまして、記念に何か書こうかなと思って書いたものです(笑)
『せめて刹那の新婚生活を』
ある日、夜が明けなくなった。
彼が魔導で設えた時計はもう昼を示していたけれど、やはり外は満天の星空を抱く闇が支配したままであった。
国は大混乱に陥る、はずではあったが。
誰もが、その理由を知っていた。
「彼ら」と親しい友人は皆、手元にある招待状に目を落とし、納得したように星空を眺める。
国中を納得させた、明けない夜の理由。
それは…………
「ねえねえ! このドレス派手じゃない? 大丈夫?」
「少しは落ち着きなさいませ。あなたの結婚式ではないのですわよ?」
いつもの赤いチャイナドレスではなく、水色の落ち着いたドレスに身を包んだドラコケンタウロスと、魔女の正装であるいつもの黒服姿のウィッチは、緊張した面持ちで廊下を足早に歩いていた。
「あっ、ここだよ、ここ!」
「人の話を聞いてませんわね……えぇと、ここが控室ですわね」
二人は扉の横にあるネームプレートを確認して、勢いよく扉を開いて飛び込む。
「アルル~! 結婚おめでとー!」
「アルルさん、お祝いに来ましたわよ」
「ドラコ! ウィッチ! わーっ! 来てくれたんだ! ありがとう!」
アルルは二人に抱きついて歓喜の声を上げるのだが、二人は目を見開いたまま固まっていた。
リアクションがないことに気付いたアルルが不思議そうに体を離し、二人の顔を覗き込む。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃありませんわよ!」
「誰かと思っちゃったじゃない!」
二人は純白のドレスに身を包み、普段はしない化粧を施されたアルルの姿に驚きを隠せないようだ。
「当たり前でしょう、私がメイクしてるんだから。アルル、まだ終わってないんだからじっとしてなさい!」
部屋の奥からメイク道具を持ったままルルーがゆっくりと歩いてくる。
「ほえ~……これは美少女コンテストでなくて良かったよ……今回ばかりはあたしも勝てる気がしないや」
ドラコは照れたように笑い、部屋の奥に目をやった。
奥にいるであろう、新郎の姿を見ようと。
「たく……こんなんで式をちゃんと終わらせられるのか? 」
ソファにどっかりと座ったまま、新郎はふてくされたような顔でぼやいていた。
「さすがはシェゾさん……似合ってますわね~」
ウィッチが苦笑する。
彼は元がかなりの美形である、真っ白なタキシードが嫌味なほどに似合っていた。
「シェゾ! タキシードが皺になるからシャキッと座れと言ったでしょう!」
「あーうるせうるせ。へいへい、いくら俺でも式の前に複雑骨折はご免だ」
ルルーの叱咤に渋々、ちょこんとソファに腰掛け直す。
「そもそも、俺は別にここまでやらんでもいいと言ったんだ……」
「何言ってんのさシェゾ! ぼくらの新しい門出なんだから、みんなにお祝いしてほしいじゃないか!」
「あーもう、わかったわかった。いいからさっさと支度を済ませろアルル」
「もー、なんだよシェゾは平然としちゃってさあ……」
「誰が平然としとるかっ! お前のその姿を他の野郎に見せるのが嫌なだけだっ!」
「……私達はお邪魔ですわね」
「そだね、式場へ行こうか」
ウィッチとドラコケンタウロスは苦笑し、新郎の喚く声を背に足早に控室を後にした。