6月。
雨が続き、いつもなら憂鬱な気分になる頃なのだが、今年の私は違う。
「今日もお疲れさん!」
「葵こそお疲れ様!」
かちん、と冷えたグラスがぶつかって音を立てる。
琥珀色のそれをぐっとあおって、二人同時に大きく息を吐いた。
「っかー!! うめ~」
「ふーっ! この一杯が最高なのよね~!」
今日も映画の撮影と舞台の練習で帰宅は遅く、夕食とお風呂を済ませてみたらもう日付は変わっており、慌てて晩酌の準備をしたのだ。
冷えたグラスにビールを注ぎ、軽く乾杯して肴を前に一日の出来事を語る。
葵と付き合いだしてからますますこの部屋に入り浸っているので、これも日常になってきた。
ただ、お酒に関しては付き合い出してからの「日常」で。
……そう言えば、どうして葵は今まで飲まなかったのかしら?
「ねぇ葵。お酒飲み出したのって、私達が付き合い出してからよね? どうして?」
唐突に問われて、葵は一瞬何の事だかわからないという顔で私を見たが……
「何だそんなことか」
朗らかに笑って、次なる一杯をグラスに注いだ。
「そりゃあ、飲んだら多少なり理性が危うくなるからな。うっかりお前を押し倒したりしねーように封印してたんだよ」
…………朗らかなまま不穏な発言しないでよ。
「しっかし、怖いくらい順調だなあ撮影」
「……そうね。まあ、最大の難所は過ぎたしね」
そう。
件のベッドシーンの撮影は先週、無事に終了したのだ。
もちろん、最高の出来で。
「台詞なしであれだけ雄弁に語れるとはなー。やっぱ俺の見込みはバッチリだったわけだ、なっ? 主演女優サン」
「ふふっ。この世界を教えてくれて有難う、主演男優サン」
今年の梅雨は、こんなにも清々しい。