その夜、私達はテーブルを挟んで向かい合っていた。
私の醸し出す雰囲気がいつもと違うのを感じているのか、葵もやや緊張した面持ちで座っている。
「で、頼みってのは何だ?」
「……ええ」
いざ切り出されると、何から話していいのかわからない。
「……うーん……心の整理を手伝って欲しい、と言うか……」
「心の整理?」
「そう。ゆうべは答えが出るってところで邪魔されちゃったし」
他ならぬ葵に、ね。
北田くんの言った言葉。
由梨香の言った言葉。
「ゆっくりでいいから話してみな。朝までだって付き合ってやるよ」
「……ありがとう」
優しい葵。
私の胸はまた甘く疼く。
「あの、ね……私、考えてみたのよ。仮に、映画のヒロインを引き受けていたとしても、相手が葵じゃなかったらどうしただろうって。だから、北田くんに置き換えて考えてみたの」
「……ああ」
意を決して話し出すと、葵は真剣に聞いてくれる。
「北田くんと抱き合って見つめ合ったら? ……北田くんとキスシーンがあったら? 北田くんとベッドシーンがあったら?」
言いながら私は小さく震えた。
「 ――― 想像できなかったの」
北田くんは大切な友人だけど。とても大好きだけど。
彼に唇を塞がれることを想像しようとして、鳥肌が立った。
戯れにじゃれあうのなら想像に難くない。
でも、彼と真剣に睦み会う自分は、私の内には存在しない。
「だったら、何で俺とはキス出来るんだ?」
茶化すわけでもなく、淡々と葵が言った。
「それが答えを導き出す為のヒントだったの。葵のファーストキスが私のファーストキスだと知って、私ホッとしたの。葵のキスは突然だったり、強引だったりしたけど、私は心地好いと感じたの。それは何故かって、考えたの」
「ああ。……答えは、出たのか?」
優しく微笑む葵。
私は、きっと切ない貌で微笑っているんだろう。
「葵が……好きだから」
想いがあふれて、声が震えた。
「葵のことが、好き……!」