見る間に絶望の色に染まってゆく千歳の表情。
「どうしたんだよ?」
ただ事ではなさそうだと感じて葵は千歳に恐る恐る声をかけるが
千歳は腕時計を見つめたまま、ピクリとも動かなかった。
やがて彼女は我にかえったのか、窓に目をやった後
扉に駆け寄った。
ガチャガチャと無機質な音が部屋に響くが
その扉が開かれることはなく。
「閉じ込められた……」
ぽそりと呟かれた彼女の言葉に、葵もようやく先程の千歳の絶句を理解するのだった……。
先程作ったスペースに再び二人で腰を下ろし
諦めたように千歳が説明する。
「6時になると全室オートロックがかかるようになってるの。開校後はマスターキーを持った当直の教師が見回りをすることになってるんだけど、まだこちらに常駐してる教師はいないのよ」
「うっかり残っちまってる奴はどうすんだ? 気付かなかったとかで」
「10分前に放送がかかるし、それでも取り残された生徒は当直の教師が助けてくれるわ。……ちゃんと機能していれば」
当直の教師はまだいない今、救出は望めないらしい。
「放送は、かかんなかったのか?」
葵が問うと千歳はばつが悪そうに視線を泳がせて小さな声で何かを言ったが
「え?」
聞き取れず、葵が聞き返すと怒ったような表情でもう一度
今度は叫ぶように言った。
「私も気を失ってたのよ! だから放送を聞いてないの!」
葵と一緒に倒れた際、彼女も僅かの間だったが意識をなくしていた。
おそらくその間に帰宅を促す放送がかかったのだろう。
自分の不甲斐なさを露呈することになったのが余程恥ずかしいのか
千歳は膨れっ面で黙り混んでしまった。
しかし葵が思うのは彼女の不手際でも何でもなく。
「気を失ってたって……頭とか打ってねぇだろな? ほんとに怪我ないのか? どっか痛いとか……」
面食らった千歳は膨れっ面を作るのも忘れて
唖然としたまま頷いた。
「怒らないの……?」
「はぁ? なんで怒らなきゃなんねーんだよ。そもそも俺がカーテン開けようとしなきゃこんなことにはならなかったんだし」
「それを言うなら、私がこんなところに連れてこなかったら……」
「もっと言えば、俺がお前をかくれんぼに誘わなきゃ……ってほら、やっぱ俺のせいなんだよ」
「極論すぎよ!」
「そ、つまり先のことは誰にもわかんねえんだからさ。俺が私がってのはとりあえず今は忘れて互いに運が悪かったんだってことにしとこうぜ」
「もう……でもまあ、そうね。今それを論じても何の解決にもならないわね」
気楽な葵に毒気を抜かれたのか
千歳にようやく笑顔が戻る。
「ねぇ誰か……気付いてくれるかしら」
「無理じゃねーかな。6時まわって見付からなければ鬼の負けってことで帰宅するってルールになってたし」
「帰りが遅いことを心配した親が警備会社に連絡してくれるとか」
「お前ん家、おばさんいるのか?」
「いいえ、今はスイスよ」
「……忘れてるかもしれねーがな、俺も今一人暮らしだ」
「…………つまり」
「まー外からの助けは期待出来ないだろうな」
どんどん暗くなっていく格子の向こうの空を見上げ
二人は深くため息をつくしかなかった……。
恵然さん専用選択肢
1.このままこの場所にいる
2.どうにかしてここから出る方法を考える
3.その他(具体的にリクエストがあればこちら)