太陽の選択肢 2







「ちーちゃん」


わぴこの控えめな声にハッとした。
目の前はゆがんでいた。
私の目いっぱいに浮かんだ涙のせいで。



ここで泣いてどうするの千歳!
早く、ごまかさないと!


慌てて涙を拭おうとしたその時。



「馬鹿、目をこするんじゃねぇ」

葵が私の腕を無造作に掴む。

「砂粒で目が傷つくことだってあんだぞ、お前。ほらこっち来い、洗い流すぞ」

「え……っ」


有無を言わせず引っ張って行かれる私の背後で、クラスメイトたちの声が聞こえた。



「目に砂が入っちゃったのか……」
「ちーちゃんたちが戻ってくるまで待つ?」
「いや、少しかかるかもしれないし僕らは先に始めておこう」
「うんうん、じゃあオニ決めるよー。じゃ~んけ~ん……」








ずんずんと前を歩く葵の歩調は、あまり優しくない。

……でも。
葵の優しさが握られた腕から染みてくる。




私が泣いてるところを見られたくないって思ったの
気付かれちゃったのね。
だから、目に砂が入ったように見せかけて
連れ出してくれた。






「ほら、ここなら誰も来ないだろ」


気付けばそこは裏山。
それも、道から少しはずれた場所だった。


「俺にも見られたくないなら、先に学校戻っとくからよ。思いっきり泣けよ」



ここなら少々大声出したって気付かれないだろ?


そう言った葵の表情は茶化すようなものではなくて。
どこか、つらそうで。



じゃあな。

そう言って彼は元来た道を戻ろうとしたから。




つい。
考える暇もなく。


葵の手を、握って引き止めていた。






大声で叫びたい

思い切り泣きたい

だけど



「ひとりに、しないでよ……!」



それはひどく、寂しいから。











葵は黙っていた。

しょうがねぇな、とか。

一言もなく。



ただ、私を強く抱きしめてくれた。


人のぬくもりが、いつからこんなに遠ざかってしまったの?

昔は、お父様やお母様と手を繋いだり、抱きしめてもらったり、当たり前のようにあったぬくもり。

いつから、私は……「一人」だったの?











救いを求めるように、ただひたすら私は泣いた。

意味のある言葉なんてひとつも出てこなかった。

ただ、わあわあと声を上げて泣いた。


葵にしがみつけば、ぎゅうっと強く抱きしめてくれる。


葵の手が私の髪を撫でてくれる。


友人だから、というだけでは決してない感情。


抱きしめてくれたのが葵じゃなければ、私はきっとこんな素直に泣けていない……。








どれほど、泣いたのだろう。

目はショボショボするし、鼻はグズグズだ。




「それだけ泣いたら結構体力使ったろ。今日はもう帰ろうぜ」


私が鼻をすすった後、小さく息をついたのを見計らって葵が言った。

思わず顔を上げると、傾きかけた太陽を背にニカッと笑う葵の姿。

嫌味でもなく、15歳の少年のあどけなさと、頼りがいのある男性の強さを併せ持ったそれ。


「俺がアイツらにはうまく言っといてやるよ。だからお前は帰ってゆっくりしろって」



……まぶしい。

どうして葵は、そんなに強いの。