『ライバルは君だ・10』

 俺は正直、由宇の性格からいってもっとゴネると思っていた。

俺なんて普段着ないってだけで、ただのスーツ姿なわけだし。
なのに、なんだこのアッサリした反応は?



いぶかしむ俺たちを残し、由宇はにこりと微笑んだ。

「さて、勝負もついたことだし。ぼく帰りますね」

「え、あ……」

「また学校で!」

「お、おい」



スカートを翻し颯爽と走っていく由宇の後姿を、俺たちは呆然と見送った。


「あっさり……しすぎじゃねえ?」

「何かよからぬことでも考えてないといいけど……言いくるめる為に色々考えてたのになぁ」




俺と秀一は不安でたまらないのだが。

しかしここで考えていてもしょうがない。


「ま、いっか……んじゃ俺も帰るかな」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ葵!」


もうここに用はないし、と公園を出ようとしたところだった。
千歳が慌てて追いかけてきたのだ。


「何もそんなすぐに帰らなくたっていいじゃない! もったいない!」

「何がもったいないんだよ?」

「えっ……それは……そのう……」


モジモジと体を揺らす千歳。
もう結構いい時間だぜ。
別に帰って晩飯食ってもいい時間だろ。




……晩飯?




ふと秀一の方を見る。

なにやら片手でサインらしきものを送っているようだが。







「……ムキシムは無理だぞ」

「え?」

「そんなに裕福じゃないんだからな。普通のレストランだ」

「え、あの、葵?」




『このまま食事にでも行ってきたら?』

そういうことなんだろ、秀一?



千歳に向かってホラと腕を差し出せば、おずおずと絡まる細い腕。

秀一とわぴこが顔を見合わせて満足そうに頷いているのを確認して。






たしかに、もったいないよな……と俺は思う。
千歳はいつものことながら、それなりにオシャレして出てきているわけで。

俺も滅多にしないこんな格好してるし。


いわゆる、千載一遇のチャンスってやつかもしれねえ。






「今からだと帰りは遅くなるけど、大丈夫なのか?」

「なによ、私が一人なの知ってるでしょう」

「いやほら、ぎょぴがいるじゃん」

「いるわよ、あそこに」




ん?


千歳が指差した方角。
わぴことじゃれあうぎょぴの姿があった。

わぴこがこちらに気づいてウインクする。
次いでパタパタと手を振られて気づいた。


二人きりの時間を楽しんで来い、つうことね……




「そっか。じゃあメシ食ったら夜景でも見に行くかぁ」

「……いいの?」

「いいんじゃねえ? 初デートなんだし」


「…………!?」