『ライバルは君だ・11(了)』

 ああ、そうだ。

これはデートだ、れっきとした。

だからその気がないなら断れよ。






内心ドキドキしながら千歳の反応を待つ。






「で、ででデート……デート……」

ぽわん、と音がしそうなほどに千歳の頬が染まる。

「で、どうすんだ千歳。俺は好きでもない女をデートには誘わないぜ。だからお前も好きじゃない男とデートなんてすんな」



さらりと。
遠まわしではあるが、言った。

俺がデートに誘うのはお前だけだ。
好きな女だけだと。







「わ、私だって……好きでもない人とデートなんてしないわよ!」

「ほぉ、いい男なら誰でもよかった昔とは違うなぁ、成長したな千歳~」

「あんたねぇ! ……だ、だから……行きましょ、葵……その、私は、あのう……」


だんだんと声が小さくなる千歳をじっと見つめる。


先を促すように。





「葵以外とデートなんてしたくない」



「よく出来ましたっと。いやー初デートおっそいよなぁ俺ら」

「もう……ムードないんだから」

「いやいや、お前のこと好きだった期間から考えると遅すぎなくらいだぜ」

「なっ……! い、いつから……」

「中学3年の頃から」

「ええっ!?」

「お前はいつからだよ」

「うっ! わ、私は…………」





ドンカン、と千歳が呟いた。





「そうかなと思ってても自惚れられないモンだろ? お前が最初から俺のこと好きだったんじゃないか、なんて俺痛いヤツみたいじゃん」

「勘違いなら痛いかもだけど……間違ってないもの。もっと早く言ってくれればよかったのに!」

「まあまあ、今から埋め合わせすりゃいいじゃんか」

「もぉ~……」

絡めた腕はそのままに、ふくれて見せる千歳が可愛くて。
俺は千歳の髪に軽くキスを落として、颯爽と歩き出した。

ああ、夕日がまぶしいぜ。
人生バンザイ!



























 さて、俺と千歳が恋人同士になってから初めての登校。
……といっても普段となんら変わることもないんだけどな。


しいて言えばクラスの連中が冷やかしてくるくらいか。
しかしその大半の意見が「遅すぎる」「もっと早くくっつくと思ってた」だったのが納得いかないが。





なんつっても来年は大学生だからなー。
ああ、これから色々千歳を連れ出してやらないとなー……なんて。


少々甘い想像に浸っていた俺の耳に飛び込んできた声。




久遠寺葵さん!」

……どっかで聞いた声だな。


「葵さん!」


「げ、由宇……! お前また性懲りもなく……」


昨日はいやにあっさり引き下がったと思ったんだよ。
今度は何だ?


「今度は一体何で勝負だ?」



無意識に身構える俺。

止めようとする千歳。



だが由宇は満面の笑みで俺に飛びついてきた。


「葵さん! ぼく葵さんの男らしさに感服しました! ぼくを助けてくれた時の葵さん、すごく素敵だったです!」


「…………へ……?」

「ぼくを弟子にしてください、お願いします! ぼく葵さんみたいに男らしくて格好いい人間になりたいんです! うんと言ってくれるまで離れませんからっ」





で、弟子?


「ちょ……っと、由宇! 葵は忙しいのよ! 無茶言わないの!」

「忙しいって、ちーちゃんとデートする時間をさけばいいじゃないか」

「ななな!」

「いくら大好きなちーちゃんでも、邪魔するなら容赦しないよっ! 今日からぼくのライバルは、君だ!!」


びしぃぃぃっ!


千歳を指差しながら俺に抱きつく由宇。
あっけにとられる俺、ほかクラス一同。



ぷるぷる……
ぷるぷるぷる……


千歳の肩が震える。



「……ぃ……」

「ち、千歳?」


「ぃぃぃぃぃいいい度胸じゃないのぉぉぉ……由宇……! 葵は渡さないわよ!!」

ゴゴゴゴゴ。

懐かしくも、二度と拝みたくはなかった千歳の背後に燃える炎。


ああ中学の頃は毎日コレ拝んでたなーなんて現実逃避する俺、その俺を両側から挟んで取り合う千歳と由宇。









早く、早く卒業しないと。
これから毎日こんなのが続くなんて……俺は……俺は……


「冗談じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇー………………っ!!!!!」













(了)