ああ、そうだ。
これはデートだ、れっきとした。
だからその気がないなら断れよ。
内心ドキドキしながら千歳の反応を待つ。
「で、ででデート……デート……」
ぽわん、と音がしそうなほどに千歳の頬が染まる。
「で、どうすんだ千歳。俺は好きでもない女をデートには誘わないぜ。だからお前も好きじゃない男とデートなんてすんな」
さらりと。
遠まわしではあるが、言った。
俺がデートに誘うのはお前だけだ。
好きな女だけだと。
「わ、私だって……好きでもない人とデートなんてしないわよ!」
「ほぉ、いい男なら誰でもよかった昔とは違うなぁ、成長したな千歳~」
「あんたねぇ! ……だ、だから……行きましょ、葵……その、私は、あのう……」
だんだんと声が小さくなる千歳をじっと見つめる。
先を促すように。
「葵以外とデートなんてしたくない」
「よく出来ましたっと。いやー初デートおっそいよなぁ俺ら」
「もう……ムードないんだから」
「いやいや、お前のこと好きだった期間から考えると遅すぎなくらいだぜ」
「なっ……! い、いつから……」
「中学3年の頃から」
「ええっ!?」
「お前はいつからだよ」
「うっ! わ、私は…………」
ドンカン、と千歳が呟いた。
「そうかなと思ってても自惚れられないモンだろ? お前が最初から俺のこと好きだったんじゃないか、なんて俺痛いヤツみたいじゃん」
「勘違いなら痛いかもだけど……間違ってないもの。もっと早く言ってくれればよかったのに!」
「まあまあ、今から埋め合わせすりゃいいじゃんか」
「もぉ~……」
絡めた腕はそのままに、ふくれて見せる千歳が可愛くて。
俺は千歳の髪に軽くキスを落として、颯爽と歩き出した。
ああ、夕日がまぶしいぜ。
人生バンザイ!
さて、俺と千歳が恋人同士になってから初めての登校。
……といっても普段となんら変わることもないんだけどな。
しいて言えばクラスの連中が冷やかしてくるくらいか。
しかしその大半の意見が「遅すぎる」「もっと早くくっつくと思ってた」だったのが納得いかないが。
なんつっても来年は大学生だからなー。
ああ、これから色々千歳を連れ出してやらないとなー……なんて。
少々甘い想像に浸っていた俺の耳に飛び込んできた声。
「久遠寺葵さん!」
……どっかで聞いた声だな。
「葵さん!」
「げ、由宇……! お前また性懲りもなく……」
昨日はいやにあっさり引き下がったと思ったんだよ。
今度は何だ?
「今度は一体何で勝負だ?」
無意識に身構える俺。
止めようとする千歳。
だが由宇は満面の笑みで俺に飛びついてきた。
「葵さん! ぼく葵さんの男らしさに感服しました! ぼくを助けてくれた時の葵さん、すごく素敵だったです!」
「…………へ……?」
「ぼくを弟子にしてください、お願いします! ぼく葵さんみたいに男らしくて格好いい人間になりたいんです! うんと言ってくれるまで離れませんからっ」
で、弟子?
「ちょ……っと、由宇! 葵は忙しいのよ! 無茶言わないの!」
「忙しいって、ちーちゃんとデートする時間をさけばいいじゃないか」
「ななな!」
「いくら大好きなちーちゃんでも、邪魔するなら容赦しないよっ! 今日からぼくのライバルは、君だ!!」
びしぃぃぃっ!
千歳を指差しながら俺に抱きつく由宇。
あっけにとられる俺、ほかクラス一同。
ぷるぷる……
ぷるぷるぷる……
千歳の肩が震える。
「……ぃ……」
「ち、千歳?」
「ぃぃぃぃぃいいい度胸じゃないのぉぉぉ……由宇……! 葵は渡さないわよ!!」
ゴゴゴゴゴ。
懐かしくも、二度と拝みたくはなかった千歳の背後に燃える炎。
ああ中学の頃は毎日コレ拝んでたなーなんて現実逃避する俺、その俺を両側から挟んで取り合う千歳と由宇。
早く、早く卒業しないと。
これから毎日こんなのが続くなんて……俺は……俺は……
「冗談じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇー………………っ!!!!!」
(了)