驚いたな……
由宇は女装して来ていたのだ。
それもその完成度たるや、口を開かなければ男だとはわからない出来上がり。
しかし、あの大学生もナンパした相手が男だったとはまさか思ってなかっただろうなぁ……
「あとはちーちゃんだけだね!」
「そだな……」
「そうですね……」
気まずい空気。
そりゃそうだ。
俺は女の子が絡まれてると思って由宇を助け。
由宇はライバルである俺に助けられてしまったわけで。
「葵ちゃん、それサイズ直したんだね」
わぴこが俺の姿を見て微笑んだ。
そう、俺が着ているのはライトブラウンのスーツ。
いつだったか、千歳に誘われてムキシムに行くために着たものだった。
髪も当時と同じように前髪を上げ、サングラスもしていない。
まあこの格好をするとあの頃の歯の浮くような自分のセリフがよみがえってきて、正直いい気分ではないが。
恥ずかしいヤツだなーと、過去の自分を思う……。
「考えてみたんだぜ、一応」
「うん、昔より似合ってるじゃないか」
「中学生だと着られてる感がアリアリだったからなあ」
俺も少しは大人になったんだなぁ。
俺がしみじみと感慨にふけっていると。
「ところで、天川くんはどうして女装を?」
秀一が直球で聞く。
なるべくそのことに触れないで置きたかったのに……お前ってヤツは。
「別に……理由はないです。ただ似合うって自信はあったから……一番勝てそうなこれにしただけです」
まあ確かに、恐ろしいほど似合ってる。
ロングヘアのウィッグに薄化粧、フリフリのワンピースとまあ、どっかの誰かの好みどストライクではあるがな。
そして。
「お待たせ! いきなり呼び出すんだもの、準備に時間がかかっちゃって…………って、え?」
千歳が慌てて公園に飛び込んできて、足を止めた。
ばっちり目が合う。
俺は気恥ずかしくなって思わず視線をそらした。
「ええ? えええ!? どうなってるのこれ、二人ともどうしちゃったのよ!?」
千歳が駆け寄ってくる。
俺は何と言っていいものかわからず、地面をただ見つめていた。
「葵……この服ってあの時の……クリスマスの……」
「……おう」
なんでこんな格好してるの、とか聞かれるんだろうな。
秀一はちゃんとそこらへんを説明してくれんのか?
なんて考えていると。
「この勝負、葵ちゃんの勝ち~!」
わぴこがどこから出したのか赤い旗を頭上に掲げた。
……へ?
俺と由宇は同時にわぴこを見る。
わぴこの隣では秀一もうんうんと頷いていた。
「ちーちゃんが最初に話しかけるのがどっちか、っていうのが勝負の決め手だったんだよ~ん」
「どういうこった?」
「変装だから、二人とも普段着では来ないだろう。そうなると、どちらも千歳さんの意表をつくことになるよね」
まあ、な。
俺も由宇もそういう意味では意表をついてたが。
「その上で千歳さんが先に問いただしたくなる方が、より完成度が高いってことで」
「葵ちゃんの勝ちー」
なる……ほど?
けど、由宇はそれで納得するのか……?
自信があるからあの格好なワケだろ。
これで丸くおさまるとは到底思えないんだが……
と俺の心配をよそに。
「そうですね。ぼくの負けです」
あっさりと、負けを認めたのだ。