(サングラス越しじゃないだけでもドキドキするのに)
(そんなに真っ直ぐに見つめないで)
千歳は何度も目をそらそうと思いながらも、じっと葵の目を見つめてしまっていた。
それほどに真剣な表情。
だから、彼の言葉に素直に頷く事が出来たのかもしれない。
「言っとくけどな、冗談や嫌がらせじゃねえからな」
(当たり前じゃない、その顔を見てたら冗談だって言われても信じられないわよ)
葵が体をずらし、場所をあけたので隣に腰掛けながら千歳は少し笑った ―――。
沈黙を心地良く感じるのは、月のせいかしら……などと考えながら、痺れた足に気付かれないようにこっそり足の指を動かしていると、唐突に葵が口を開いた。
「どれくらい眠ってたんだ、俺」
「えっ」
足に集中していたりしなければ、もう少しマシな声が出たのではないだろうかと後悔しながらも。
千歳は答えようとデジタル時計を見て、自分の目を疑った。
「6時間……くらいね」
慌ててデジタル時計に目をやる葵も、あまりに長い睡眠に半ば呆れたように軽く首を振ると、千歳に向き直る。
「葵が目覚めないからってここへ運びこんでもらったのが多分18時くらいだったから……私も4時間くらい眠ってたのね」
千歳がそう説明すると納得したように
「お前も生徒会やら理事長の仕事で疲れてたのか」
と心配そうに言われ、千歳は焦った。
今まで葵にここまで正面から心配されたことがないので反応に窮する。
「……べ、べつに、そういうワケじゃないわよ」
つい、いつも通り可愛くない応対をしてしまった。
だが葵はふっ切れたのか、食い付いては来なかった。
「無理すんなよ。少しは心配させろ」
そう優しく囁きながら千歳の肩を抱き寄せる。