『Wake up,My Prince 5(Wake up,Sleeping Beauty~千歳side)』

次の瞬間、葵の声が自分の顔に近いところから聞こえた千歳は大きく跳ね上がる。
笑みを含んだその声が更に近くで甘く囁きかけて来るものだから、再び跳ねそうになる体を抑えるのが大変だった。

いや、囁きの内容を聞いて跳ね上がった、と言っても良かったが、千歳自身近くで囁かれたからなのか、それとも
「起きてんだろ? 10秒以内に目ぇ開かないなら……キスするぞ」
などと言われたからなのか、わからなかったのだ。

(今、何て言ったの? キス? キスってあのキス? え、ええっ? ちょっと待って、そんな、ああ、今何秒たったのかしら?)

焦り、ながらも。

(葵は……本気、だわ)
そう確信して、期待している自分に驚く。

これが最後の問いだ、と言わんばかりに葵の手が千歳の頬に添えられる。

(――― 葵、あなたが、好き)
思いが、この唇から伝わればいいと、願って―――




思ったより、唇はひんやりとしていて。
それでも千歳をうっとりさせる程には柔らかくて。
葵の唇が押し当てられていたのは、ほんの一瞬だったけれど。
千歳は自然と、固く閉じていた瞳を開いていた。

(ああ、もう今までの葵じゃないんだわ)
(こんなに真剣で、それでいて優しい目なんて……初めて見る)

「……っ」
葵が小さく息をのんだ。
急に、今まで離れて行こうとしていた真剣な瞳が近付いてくる。
気付けば、再び口付けられていた。
先のような、かすめるような口付けではなくて。
互いの唇の輪郭を確かめるような、長い口付け。
急にまた鼓動が疾りだし、千歳は体を固くする。
それに気付いた葵はその肩をゆっくり一度撫でて、唇を離した……。

知らず知らずのうちに、葵がキスしやすい様にと顔を上げていたのだと気付いて恥ずかしくなる。