『Wake up,My Prince 4(Wake up,Sleeping Beauty~千歳side)』

逡巡する千歳の頬を撫でていた葵の指が目元をなぞり、かすめるように前髪をもてあそんで髪の上へと辿り着いた。
そのまま髪の流れに沿うように何度かそこを滑らせ、葵は口を開いた。

「俺はもう気付いて、過去の自分と決別したぜ。ガキみてえなやり方は、もうやめだ」

まるで千歳が目を目を覚ましている事を知っているかのような口調で葵は続ける。

「もうごまかす必要がなくなっちまった。お前のせいでキッチリ自分の気持ちに気付いちまったからな」


ぴくり。
意味深長な言葉に、思わず肩が跳ね上がってしまった。
千歳は混乱する。

バレたかも。起きてること、バレてるのかも。
それに葵の気持ちって、何?
もう私とバカ騒ぎなんてしていられない、とか言うことじゃないのよね?
期待していいの? 期待してしまったら、はい上がれないくらい深いところへ突き落としたりしない?



恐怖、期待、焦り。
色々な感情を持て余して、千歳の頭の中はマーブル模様の様相で。
消化しきれない感情が涙となり、瞼を押し上げて睫毛を濡らし、シーツへと落ちてゆく。

「だから、泣くな。泣かせたいわけじゃねえって言ったろ」
涙を拭う葵の声に含まれた笑みの色。

もう、とっくに気付かれているのだと千歳は理解した。
自分が目を覚ましていることなど、葵にはお見通しなのだ。
しかし、だからこそ目を開けられなくなってしまった。


どんな顔をすれば良いの。
何て言えば良いの。


跳ねる鼓動、ともすれば震えてしまいそうになる瞼。
汗を握る手の平。
(どうしよう、きっと今私の顔、真っ赤だわ)
(でも……でも、こんなに暗いもの。見えないわよね?)

千歳の無言をどう受け取ったのか、葵は小さく息をついた。