何度目かの目覚め。
葵のベッドで目覚めた私は、徐に腕を上げた。
のろのろと、本当にスローモーションのようにゆっくりと。
……身体が軋むような感覚はない。
熱は下がったのかしら。
部屋が明るいところを見ると、どうやら日はとっくに上ったようだ。
車の通る音や、子供たちのはしゃぐ声が聞こえる……
「葵?」
私は身体を起こして、夜通し看病してくれた葵の姿を探して……
――― ちゅ
「無防備だな、千歳ちゃん?」
首を巡らせた瞬間、唇を浚われた。
ニヤリと笑う葵、言葉も出ない私。
「心配すんなって、いくら両想いになったからって病人襲うほど鬼畜じゃねーぜ」
そう言う葵の顔は、晴れ晴れとしているものの、目の下には隈が出来ていて。
「寝てないの!?」
考えがあるって、これ!?
無茶よ、葵ったら!
「気にすんなよ、お前の寝顔を見てると眠くなんてならなかったしな」
「そんなわけないじゃないの! 葵が倒れちゃうわよ」
「……なんつーか、色気のない会話だよなぁ」
葵は呆れたようにポリポリと頭をかいて、小さく嘆息した。
わかってるわよ、葵の言いたいこと。
確かに昨夜、あれだけいい雰囲気になっておきながら私はまた熱が上がって寝込み ――― 葵もまた甲斐甲斐しい看護に戻って。
だけど、今更何を言えっていうのよ。
熱に浮かされてたからこそ、素直に好きだと言えたけど。
すっきりした頭ではいくら何でも……
「なぁ、もっかい聞きてえな~……」
いくら、何でも……
「言ってくれよ、千歳……言えるだろ?」
…………
「ち、と、せ?」
葵は
葵は……!
「……っ、無、理……!」
「無理じゃないだろ? 俺は千歳の可愛い声で聞きたいんだよ……な、言ってくれよ」
なんて確信犯!
なんてサディスティック!
ツイ、と首筋を撫でながら。
妖艶な笑みを浮かべて顔を近づけて。
「千歳……言ってみ?」
耳朶を甘噛みしながら、息に囁きを乗せて吹き込まれ。
……ベッドに腰かけてなきゃ腰が砕けてたわ、きっと。
「……すき」
もう完敗。
葵は色気なんてものと無縁な人間だと思ってたから、余計に破壊力があるのよ。
そして葵はそれを自覚してて、わざとやってる。
勝てないわよ。
周到なのかと思えば弱気だったり、優しいのかと思えば意地悪だったり。
「やっぱお前は可愛いよ、千歳」
でもね。
こんな嬉しそうに抱きしめられたら、ね……
いいかなって思っちゃう。
つけこむ男はわざわざ罪を吐露したけれど、それでも私はつけこむことを許したんだもの。
(了)