俺はつけこむ男だぜ 1(葵×千歳)

 今日の私はついてない。
とにかく、朝から運が悪かった。



まず、起きて髪を整えてたら外が急に暗くなり、見事な土砂降りになった。

いささかウンザリしつつも、この間買ったばかりの傘を使えるからいいじゃないと自分に言い聞かせて大学へ向かえば、一限目は休講。

それでもまぁ、コーヒーを飲む時間が出来たからと食堂へ向かったらコーヒーは売り切れ。

仕方なく、あまり好きじゃない缶の紅茶を飲んで授業に出たらノートを忘れて来たことに気づき、同じ講義を取る葵に頼る羽目になって散々からかわれた。

試験が近いので早々にノートを何とかしなきゃと通学路にある唯一のコンビニに行ったらコピー機は故障。

大学直通のバスは既になく、大学までは戻れず。

葵の部屋に寄ってノートを手書きで写しとることに決め、駅へと向かえば、またも土砂降りの雨が降り。


そして、大学内に傘を忘れてきた事に気づき。


不承不承、葵の傘に入れてもらい駅に辿り着き、やれやれと電車に乗り込んだところで。








「……駅において発生いたしました人身事故の影響により、ただいま……」








……………………ついてないのではなくて


「ここまで来ると、もはやなんか憑いてんじゃねえ?」


隣に座る葵が座席に深く座り直し、嘆息したのにも頷けるというものだ。



どうも人身事故は発生したばかりのようで、この電車がいつ発車するのかすら見当がつかない。


相合い傘のせいで濡れた左肩を抱き込むように、背もたれに深く背を預けて私は目を閉じた。
車内はクーラーがよく効いていて、濡れたスカートの裾や肩を容赦なく冷やしてゆく。


風邪なんか引かなきゃいいけど……。


「参ったなー……1時間遅れだとさ」


車内のアナウンスを聞いた葵がげんなりするのを見て、私は少し罪悪感を感じた。
なにせ、私に付き合ったばかりに葵まで不運に巻き込まれてしまったのだし。


「ごめんなさい、葵。私のせいね……」

罪悪感に苛まれるままに謝罪したら葵は目を見開いて。

失礼ね、そこまで驚くことないじゃない。


そりゃ私は素直じゃないわよ。それくらい自覚はあるし。
でも全く罪悪感を感じないわけじゃないもの。


「千歳、お前……」

「何よ、私が謝っちゃいけないっての?」


ムッとして葵を睨んでみたけど、何故かしら。今日は乗って来ない。
難しい顔をして考え込む葵をいぶかしんでいると、彼はぽそりと一言、なんでもねぇと言ったきり窓の外に溢れる人に視線を移した。


まぁ、いいわ。
ここで喧嘩しても仕方ないものね。


そう思い直して私は目を閉じた。
なんだか一日の不運続きが私の気力を奪っていたのか、そのまま心地好い眠りに引き込まれてしまう……。

……その眠りが、更なる不幸を招くとも知らずに。