destroyer! (後)

「わぴこ! 北田くん!」

息を切らし、二人に駆け寄った。

二人とも、どうして来たんだと言いたげに私を見る。



わかってる。わかってるけど。



「これじゃ、駄目、なのよ……! 私が決着を、つけなきゃ」

全力で走ったせいで、ひどく苦しい。
でも私は、力を振り絞って顔を上げた。

「私がちゃんと言って、納得してもらわなきゃ駄目なの」
「ちーちゃん……」

わぴこが、不安そうに見つめてくる。
だから私は、彼女を安心させるように微笑みかける。

「……いいんですか? 言えば、秘めておく事は出来なくなりますよ?」

北田くんの言葉に私は頷き、彼にも微笑みかけた。

もう大丈夫、そう伝えたくて。



そして、告白して来た男子学生に向き直る。
何故か顔が青ざめて不自然なまでに脂汗をかいている彼は、わぴこと北田くんを怯えた表情で見ていたが、北田くんに無言で促されて私に視線を移した。


私はひとつ深呼吸をして。

「前にも言いましたけど、私はあなたとはお付き合い出来ません。私、好きな人がいるんです」
「ち、千歳さん……」
「それが誰か、あなたに教える必要はないと、以前は言いました。でも、あなたが諦めてくれないのなら……聞かなきゃ、諦められないと言うのなら……私は、言います」


ひとこと、ひとこと。
区切るように、しっかりと私は言った。

彼が少し項垂れる。

「嘘じゃないんですね……告白を断る為の嘘であればと思っていたのに」
「本当です。私は」


言って、私は校舎を振り返り。

何かを叫びながら走ってくる葵を指差して。

「彼……葵のことが好きなんです」
きっぱりと言い放った。




他の生徒たちもいる中で言ってしまった。
もう、隠しておくことは出来ない。

知っていたのはわぴこと北田くんだけ。
その二人の視線は私に向いていた。


私はにっこり笑う。


「もう、こんな中途半端な関係は終わりにしましょ」



これはきっかけだったのよ、きっと。
もう、心に秘めているだけじゃいけない。


だから、伝えよう。
葵に、好きだって。



走ってくる葵に、微笑んで見せる。

「葵!! 聞いて、あのね、私、葵の」

ことが好きなの!


――― と言おうとしたんだけど。




「千歳は渡さねー! 俺だけのもんだあぁぁぁぁ」
叫ぶ葵が駆け抜けざま、私の腕をがっちり掴んでいて。

「ちょっ痛、痛……!?」
引きずられるように私も走り出さずにいられなくて。
だって、ものすごい力で引っ張られてるんだもの。



見る見る、わぴこ達が遠くなる。



「千歳、俺はお前が好きなんだよ! いつになったら気づくんだよお前は! 気付けよな!!」

どこへ向かうのかわからないまま。
走りながら、前を向いたまま言う葵の耳は真っ赤だった。


こんな葵を見るのは初めて。
こんな、こんな……葵……



急に恥ずかしさが込み上げて来て。
私だけが鈍いと思われるのは癪だし。

嬉しいし、恥ずかしいし、ドキドキするし、もうどうしていいかわからないから。



私も、有らん限りの声で叫んでやった。


「私だってアンタが好きなのよ!! 葵のバカーッ!!」





私の日常を壊しに来たdestroyer

私をさらったdestroyer


そして、私もdestroyerになる。