「わぴこ! 北田くん!」
息を切らし、二人に駆け寄った。
二人とも、どうして来たんだと言いたげに私を見る。
わかってる。わかってるけど。
「これじゃ、駄目、なのよ……! 私が決着を、つけなきゃ」
全力で走ったせいで、ひどく苦しい。
でも私は、力を振り絞って顔を上げた。
「私がちゃんと言って、納得してもらわなきゃ駄目なの」
「ちーちゃん……」
わぴこが、不安そうに見つめてくる。
だから私は、彼女を安心させるように微笑みかける。
「……いいんですか? 言えば、秘めておく事は出来なくなりますよ?」
北田くんの言葉に私は頷き、彼にも微笑みかけた。
もう大丈夫、そう伝えたくて。
そして、告白して来た男子学生に向き直る。
何故か顔が青ざめて不自然なまでに脂汗をかいている彼は、わぴこと北田くんを怯えた表情で見ていたが、北田くんに無言で促されて私に視線を移した。
私はひとつ深呼吸をして。
「前にも言いましたけど、私はあなたとはお付き合い出来ません。私、好きな人がいるんです」
「ち、千歳さん……」
「それが誰か、あなたに教える必要はないと、以前は言いました。でも、あなたが諦めてくれないのなら……聞かなきゃ、諦められないと言うのなら……私は、言います」
ひとこと、ひとこと。
区切るように、しっかりと私は言った。
彼が少し項垂れる。
「嘘じゃないんですね……告白を断る為の嘘であればと思っていたのに」
「本当です。私は」
言って、私は校舎を振り返り。
何かを叫びながら走ってくる葵を指差して。
「彼……葵のことが好きなんです」
きっぱりと言い放った。
他の生徒たちもいる中で言ってしまった。
もう、隠しておくことは出来ない。
知っていたのはわぴこと北田くんだけ。
その二人の視線は私に向いていた。
私はにっこり笑う。
「もう、こんな中途半端な関係は終わりにしましょ」
これはきっかけだったのよ、きっと。
もう、心に秘めているだけじゃいけない。
だから、伝えよう。
葵に、好きだって。
走ってくる葵に、微笑んで見せる。
「葵!! 聞いて、あのね、私、葵の」
ことが好きなの!
――― と言おうとしたんだけど。
「千歳は渡さねー! 俺だけのもんだあぁぁぁぁ」
叫ぶ葵が駆け抜けざま、私の腕をがっちり掴んでいて。
「ちょっ痛、痛……!?」
引きずられるように私も走り出さずにいられなくて。
だって、ものすごい力で引っ張られてるんだもの。
見る見る、わぴこ達が遠くなる。
「千歳、俺はお前が好きなんだよ! いつになったら気づくんだよお前は! 気付けよな!!」
どこへ向かうのかわからないまま。
走りながら、前を向いたまま言う葵の耳は真っ赤だった。
こんな葵を見るのは初めて。
こんな、こんな……葵……
急に恥ずかしさが込み上げて来て。
私だけが鈍いと思われるのは癪だし。
嬉しいし、恥ずかしいし、ドキドキするし、もうどうしていいかわからないから。
私も、有らん限りの声で叫んでやった。
「私だってアンタが好きなのよ!! 葵のバカーッ!!」
私の日常を壊しに来たdestroyer
私をさらったdestroyer
そして、私もdestroyerになる。