「ごちそうさまー! もう入らないわ!」
北条さんのやったことは犯罪ではあったけど、結局私たちは警察沙汰にはしなかった。
北田くんが証拠をきっちり押さえてくれていたので、これを『大きな貸し』にすることで話がついたのだ。
私は事情を伏せて病院で検査を受け、異常なしと診断されたのでただいまファミレスにて2日ぶりのご飯をお腹一杯頂いたところ。
もちろん、代金は北条さんの所へ請求書を送り付けて払わせる。
「改めて、お礼を言わなくちゃね。助けに来てくれてありがとう……」
私が満面の笑みでそう言えば、北田くんとわぴこは可笑しそうに笑う。
「面白いものが見られたから、安いものですよ」
「そーそー! 葵ちゃんがね」
「わぴこ! やめろー!」
葵が慌ててわぴこの口を手で覆う。
それを見て北田くんがやれやれ、と溜め息をついた。
「じゃ、今回だけは葵を信じようか。自分の口でちゃんと言えるだろう?」
「…………っく」
葵がこんなにうろたえるのを見るのは久しぶりかも……
「なあに? 何があったの?」
葵は答えない。
「もう、葵ちゃん駄目だなぁ……あのね、葵ちゃんはちーちゃんが誘拐されたって知って、本気で怒ってたんだよ。それで、初めて気付いたんだって」
わぴこがホラ、と葵の背中を押す。
ああもう、と葵はガシガシ頭をかいて。
私に向き合うと、怒ったような表情で見つめて来た。
思わず、腰が引ける。
「だから、だな……お前が、大事な存在だってことに気付いたんだよっ!! 言ったぞ、これでいいか!」
ヤケクソなのか叫ぶように言って葵はテーブルに突っ伏してしまう。
私はと言えば、あっけにとられてしまって。
「あ、ありがとう?」
なんて、間抜けな返事を。
「意味、通じてねえよな……」
葵の顔が真っ赤だ。耳まで赤いのが見てわかる。
「それは……」
「はぁ……お前が好きだってこと」
あんぐり。
私はかつてないほど、間抜けに口を開けたまま葵を凝視してしまった。
一瞬の後、北田くんとわぴこが吹き出した。
葵も一息遅れて吹き出す。
な、なんなのよ……
もう……
…………もう、ほんとに。
ねえ。
誰が薄幸の美少女ですって?
こんなにも、私は幸せだっていうのに!!
(了)