翡海さんへの捧げ物3(葵千歳)

「ごちそうさまー! もう入らないわ!」




北条さんのやったことは犯罪ではあったけど、結局私たちは警察沙汰にはしなかった。
北田くんが証拠をきっちり押さえてくれていたので、これを『大きな貸し』にすることで話がついたのだ。



私は事情を伏せて病院で検査を受け、異常なしと診断されたのでただいまファミレスにて2日ぶりのご飯をお腹一杯頂いたところ。


もちろん、代金は北条さんの所へ請求書を送り付けて払わせる。




「改めて、お礼を言わなくちゃね。助けに来てくれてありがとう……」

私が満面の笑みでそう言えば、北田くんとわぴこは可笑しそうに笑う。


「面白いものが見られたから、安いものですよ」

「そーそー! 葵ちゃんがね」

「わぴこ! やめろー!」


葵が慌ててわぴこの口を手で覆う。


それを見て北田くんがやれやれ、と溜め息をついた。

「じゃ、今回だけは葵を信じようか。自分の口でちゃんと言えるだろう?」


「…………っく」





葵がこんなにうろたえるのを見るのは久しぶりかも……

「なあに? 何があったの?」


葵は答えない。

「もう、葵ちゃん駄目だなぁ……あのね、葵ちゃんはちーちゃんが誘拐されたって知って、本気で怒ってたんだよ。それで、初めて気付いたんだって」


わぴこがホラ、と葵の背中を押す。


ああもう、と葵はガシガシ頭をかいて。
私に向き合うと、怒ったような表情で見つめて来た。
思わず、腰が引ける。


「だから、だな……お前が、大事な存在だってことに気付いたんだよっ!! 言ったぞ、これでいいか!」


ヤケクソなのか叫ぶように言って葵はテーブルに突っ伏してしまう。



私はと言えば、あっけにとられてしまって。


「あ、ありがとう?」

なんて、間抜けな返事を。



「意味、通じてねえよな……」

葵の顔が真っ赤だ。耳まで赤いのが見てわかる。

「それは……」

「はぁ……お前が好きだってこと」





あんぐり。



私はかつてないほど、間抜けに口を開けたまま葵を凝視してしまった。






一瞬の後、北田くんとわぴこが吹き出した。
葵も一息遅れて吹き出す。



な、なんなのよ……
もう……




…………もう、ほんとに。



ねえ。
誰が薄幸の美少女ですって?







こんなにも、私は幸せだっていうのに!!







(了)