翡海さんへの捧げ物(葵千歳)

ねえ。

私が一体何をしたっていうの?
いくら私が薄幸の美少女だって言ったって、これはあんまりだと思うの。





『傷心の貴女へ贈るラプソディ』






「こんなんでほんとに上手く行くのか?」
「さぁな、俺たちはただ言われた通りにこいつを見張ってりゃいいんだよ」

「こいつ……飯を食わせようとしたら指は噛むし吐き出すし……早いとこおサラバしたいよ」



私だっておサラバしたいわよ!!




「田舎ノ中の奴等が要求を飲まないんだから仕方ないだろ……つーかこいつ、大事にされてねぇんじゃねーの?」

「だとしたらこんなの人質にならねぇなあ……」



ちょっと!
勝手に人を誘拐、監禁しておいてその言い草はなんなのよ!



「たく、北条さんも無茶するよなぁ……あの学校を乗っとる為に理事長を誘拐するなんてさ」




そう。
学校からの帰り道、私はいきなり何かの薬をかがされ、車に連れ込まれた。

気付けば両手両足は縛られ、目隠しに猿轡まで咬まされて床に転がされていた。
会話を聞かれたくないのか、ご丁寧に耳せんまでされていたんだけど。



「もう2日になるか? 交渉は進んでないらしいけど……」
「そうらしいな。助けようなんて気がないのかもしれないぜ」



お生憎様。
頭を少しずつ動かして耳せんを緩めてあるのよ。



て言うか、ほんとに助けに来ないつもりじゃないでしょうね……!!

北条さんがこんなことをするなんて思わなかった……
私はどうなるんだろう。


本当に誰も私を助けるつもりがなかったら……?
わぴこは来てくれるはず……きっと。
北田くんも……何かしら動きは起こしてくれるわよ……ね……?
葵は…………


葵は、せいせいしてるのかしら。




考えたら、涙が込み上げて来た。
それは目隠しに巻かれた布に染みを作り、ひんやりとした感触に私はぐっと猿轡を噛み締める。



誰か……助けに来て……



ここまで必死に保ってきた私の心も、もう限界……




なんて。
打ちのめされているはずだったのに。