「もう3時過ぎか……悪い、千歳……俺もう我慢の限界……」
「……奇遇ね……私も限界なのよ」
ふらふら、ふわふわ。
視界がぼやける。
もう立っているのも辛い、かも。
「目覚ましOK……」
葵が時計に手を伸ばし。
それから、クローゼットまで危なっかしい足取りで行き
「これ、パジャマ代わりにするか。その服のままじゃ寝られねえだろ」
そう言って差し出して来たのは、スウェットの上下。
着慣れてるし、私としては有り難い。
「ありがとう。同じ服で行くわけにもいかないから、着替えは朝取りに戻るけどね……でもスカートじゃ皺になっちゃうものねぇ、助かるわ」
「だな。んじゃ俺、隣の部屋行ってるから着替え終わったら呼んでくれ」
ふわああ、と大あくびをしながら、葵は寝室に入って行った。
さみぃ、なんて呟きが聞こえて思わず微笑む。
私はいそいそと渡されたスウェットに袖を通して、肩を竦めた。
「冷た……」
さっきまで着ていた洋服の温もりがちょっと恋しい……
厚い生地で裏起毛のスウェットは、思ったより大きくて
袖がゴムになってなかったら手も出ないところだった。
ふわりと香ったのは、嫌味のない柔軟剤の芳香。
これを、葵が着てるのよね……普段。
何だか友達のものとは言え、肌に触れるものが自分の持ち物じゃないのってドキドキするのね。
わくわく、なのかしら?
お泊り会! なんて言葉が頭をチラついて、子供かと内心で突っ込んだ。
ともかく、隣は冷え冷えとしているようだから、あまり葵を待たせるのも可哀想だと私は小さく咳払いして呼びかけた。
「葵、いいわよ」
「おー。……やっぱサイズが合わねえな。まぁ仕方ないか。じゃ、俺も着替えるからちょっと隣行っててくれるか」
「わかったわ」
今度は私が待つ番。
目の前にあるベッドを見つめて、少し後ろめたい気分になる。
友達と一緒に寝るなんでよくあることなのよ、そう。
……言い聞かせても余り効果はなさそうだけど。
「ふわ……」
――― 眠い。
ひっきりなしに欠伸が出る。
こんなに夜更かしをしたのは初めてかも……
「いいぜー」
「はーい」
呼ばれて部屋に戻ると、先ほどまで効いていた暖房の名残が有り難い。
しかし、部屋は急激に温もりを失っていた。
「寒いわね」
「寝室はここより冷えてるからな~。早いとこベッドへ入ろうぜ、眠いし」
「そうね、今日は風邪引くわけにはいかないもの」
2人して身を縮こまらせながら寝室へ向かい。
いざベッドへ、という所で葵が足を止めた。
「あのな、先に言っとくけど……指一本触れるな、とか言うのはナシな」
「……当たり前でしょ。シングルベッドでそんな器用な真似、出来るわけないじゃない」
私が呆れ顔でそう答えれば葵は頷いて、掛け布団を捲って振り向く。
「お前、壁側な。俺あんま寝相よくねーから、こっちだと多分突き落としちまうから」
「どこまで寝相悪いのよ、それ」
「前に秀ん家で、秀を突き落としてこっぴどく怒られたんだ」
「……そう……」
なんだか本当に突き落とされかねないので、私は大人しく先に入る。
寒いのか、すぐに葵が隣に入って来る。
ギシ、とベッドの沈む音がして、無意識に鼓動が跳ねた。
別に、なんてことないわよ、うん。
「おやすみなさい、葵」
さっさと寝てしまおう。
それがいい。
だから先にそう言ったのに。
がば、と覆いかぶさって来られて
「ちょっと葵……っ」
「練習、だよ。これ以上はしない」
その言葉で抵抗を封じられてしまって。
私は葵のキスを受け入れていた ――― 。