それから毎日、朝昼は講義、夕方からは舞台の練習、そして夜は葵の部屋で2人のシーンの読み合わせ……という過密なスケジュールが続いていた。
最初の撮影は今週末。
嫌が上にも練習には熱が入ってしまって、毎日が午前様である。
先週の土日は1日中、葵の部屋で練習していたし。
撮影まであと3日に迫った今日も、とっぷりと日が暮れた頃に読み合わせと立ち回りの打ち合わせが終了した。
「なあ千歳、ちょっと気になってたんだけどよ」
いつも通り葵と2人で帰路についていると、急に葵が神妙な顔つきで
「理事長の仕事は大丈夫なのか?」
などと言い出した。
私は面食らう。
てっきりそんな事は忘れていると思っていたのだけど。
気にはしてくれてたのね。
まぁ、そのあたりは抜かりないのだけどね。
「ちゃんと代理を立ててあるわよ、とっても信頼できる人をね。教育者たるものが大学での活動をないがしろにするわけには行かないでしょうって言ったら反論する職員もいなかったし、校長なんかは笑って快諾してくれたわ」
「モノは言い様……だな」
「ふふっ、まぁたまには学生らしい息抜きもいいでしょ?」
「言えてる」
にしても、「信頼できる代理」があの由梨香だと知ったら、葵はどんな顔をするのかしらねえ?
高校生の頃に再会した由梨香は、良家のお坊ちゃまとの婚約が決まったのだと誇らしげに、幸せそうに私に言った。
葵のことはどうなったんだ、と突っ込んだら彼女は悲しげに笑って。
「憧れと恋心は別物よ。いつまでも、振り向いて貰えないとわかっている男に構っていられないの」
なんて言っていて。
ああ、何かを吹っ切ったんだな、と私は理解した。
それを機に、何となく携帯の番号を交換したり、成り行きでお茶しに行ったりしているうちに、張り合っていたのが嘘のように仲良くなってしまって。
今では秘密の親友。
別に隠すつもりはないのだけど、話す機会がなくてそのままになっている。
「今日はどうするの?」
気づけば、いつも利用しているスーパーの前だった。
私が足を止めて問いかけると、葵は少し考え込んだ。
「そーだなぁ……パスタなんかどうだ?」
「いいわね。じゃあカルボナーラにしましょうか」
「OK、寄ってくか」
今日も2人で夕飯の買い物。
これが日常になってしまってから、家で夕飯を作らなくなった。
まあ1人で食べるより楽しいっていうのは2人共が感じていることなので、互いに異存はない。