葵も交えて、夢の話をしようとした四人だったが、あいにくホームルームが始まってしまったので放課後に話し合うことになった。
しかし一日中夢のことを考えていたせいか、放課後には千歳と秀一は疲労困憊。
対するわぴこと葵はいたって普段通り……
「よく平気でいられるわねあんたたち……」
「お前と秀一が深刻に考えすぎなんだよ。たかが夢じゃねーか」
「たかが夢なら四人揃って同じ内容なんてことはないよ、葵」
「……偶然だろ」
秀一の言葉に一瞬ぐっと押されたが、葵は不機嫌そうに言って目をそらす。
「大体なぁ、これが偶然じゃなかったとしてだ。秀一、お前何とか出来んのかよ?」
「今すぐどうこうはできないよ。だけど放っておくわけにもいかないだろう?」
一理ある、と思ったのか葵はう~んと考え込んだ。
「ったく、学校来るまでは単におもしれー夢だったって喜んでられたのに……」
葵のため息を最後に黙りこむ四人。
やがてわぴこがケロリとして言った。
「一回だけなら偶然かもしれないよ。今夜も同じ夢見るとは限らないし、あと二回同じことが続いたら考えよーよ」
「あと二回?」
千歳の問いに、彼女は人差し指をピッと立てて
「三度目の正直!」
と朗らかに笑ったのだった。
かくして今日も。
二人は宿屋で爽やかな朝を迎えていた。
「おはよう葵」
「……おう」
「素晴らしい冒険日和ね」
「……おう」
「……睨まないでくれる?」
「えっ? あ、ああ悪い。睨んでたわけじゃねーんだけどよ……あーその、なんだ」
「はいはい、言いたいことは分かってるわよ。ちゃあんと覚えてます」
「そか……わぴこは三度目の正直っつったけど、二回目はどうなんだろうな?」
宿の食堂でパンを頬張りながら
葵はぼんやりと呟いた。
千歳はサラダにフォークを突き立てるようにして、葵に視線を移した。
そのまま、フォークの先に刺さったレタスのような野菜を口へ運ぶ。
「そんなにぼんやりしてたら、また今朝の食事も思い出せなくなるわよ」
至極落ち着き払っている千歳を、葵は驚いたように見つめた。
無理もない。
昨日……というか学校にいた時はあんなに取り乱していた彼女がうってかわってこの落ち着きようなのだから。
葵の視線から言わんとする事を悟ったのか、千歳は苦笑した。
「悩んでこの夢から醒められるなら幾らでも悩むわよ。だけど、そんな事が出来ないのは昨日よくわかったから」
「昨日?」
「ええ。戦闘中にね。だってちゃんと痛いんですもの。夢なのにあんまりだわ、もう起きたいのにどうして目が醒めないのって思った」
戦闘中。
なるべく千歳に被害が及ばないように葵も奮戦したが、それでも複数の敵が現れた時などは守りきれずに彼女が傷を負うこともあった。
「そっか、悪いな……」
「あら。レベル1の剣士さんにそこまで完璧は求めてないわよ?」
「ぐっ……もうレベル3だ!」
「あははは。だからね葵、私決めたの。悩むのはあちらの自分に任せることにして、ここでは精一杯ヒーラーを堪能しようって」
「ヒーラー?」
「癒し手のことをヒーラーって言うのよ。職業じゃなくて……そうねぇ、仕事で車を運転する人も、買い物で車を使う主婦も、ドライバーって言うでしょ? あんな感じの意味合いね」
「なーるほど。ヒール(癒す)人でヒーラーか」
「ともかく今日は洞窟に向かってみましょ。わぴこの話から考えると多分、昨日私たちが受けられなかったクエストを受けたのがわぴこ達よ」
「よっしゃ! ならさっさと飯食って合流すっか!」
いつもの調子を取り戻し、ばくばくとパンを口に運びだす葵を見て
微笑ましいと思いながら千歳も食事を再開するのだった……。