教室に入ると、わぴこが駆け寄って来た。
「ちーちゃん、ちーちゃん聞いて! わぴこね、昨日面白い夢を見たんだよ!」
あら、こっちも夢の話だなんて奇遇ね……などと思いつつ。
このテンションだと北田くんはさぞかし朝から振り回されてお疲れだろう、と視線をやってみると。
予想に反して難しい顔をして考え込む友人の姿があった。
いつになく真剣で不安そうな顏。
どうしたんだろう?
「おはよう、北田くん。どうしたの朝っぱらから難しい顔をして」
からかうように声をかければ彼は一瞬戸惑ったように視線を泳がせたが、小さくため息をついて、おはようございますと返した。
この辺りは本当に律儀ねと千歳は内心苦笑する。
わぴこと対照的な彼の態度。
その理由はすぐにわかった。
「念のためにお聞きしますが千歳さん、昨夜夢を見ましたか?」
念のためと言いながら、半ば確信の込められたような問い。
「まさか……」
「僕は昨夜、おかしな夢を見たんです。葵の好きそうなロールプレイングゲームのような世界に僕とわぴこが居ました。どうやら千歳さん達も登場するようなんですが、あいにく現在は離ればなれになっていたようで」
「ち、ちょっと待って北田くん!」
まるで。
私の見た夢の「一方その頃」じゃないの。
「僕はわぴこと一緒に行動していたんですが、わぴこの見た夢の内容が僕の見た夢の内容と完全に一致しているんですよ」
だとしたら、まさか。
「私は葵と一緒に旅をしていたわ。北田くん達とは船の便が違っていたから、はぐれてしまって。キリークという村にたどり着いたのだけど」
「わー、わぴこたちもその村に着いたんだよ! 今はクエスト受けて洞窟に行ってるけど」
わぴこの嬉しそうな言葉も、今は共感出来そうにない。
押し黙ってしまった二人を、わぴこが不思議そうに見つめて首を傾げた時。
「ようお前ら聞いてくれよ! 昨日おもしれー夢見てさー」
意気揚々と、葵が教室に飛び込んで来た。
一斉に見つめられる葵。
「な、なんだよ……お前ら怖ぇぞ……」
彼は意味もわからず、ひきつった笑みを浮かべるしかなかった……。