翌日、講義が終わり、私と葵は一緒に部室へ向かっていた。
私たちは取っている講義がかなり被っている為、必然的に2人で行動することになる。
私がヒロインを演じることはもう学内に知れ渡っていたから、いつも以上に一緒にいたって別におかしくはないハズなんだけどね……。
それでも、こう注目されると落ち着かないのよね。
好奇の視線から逃れるように部室に入るが、ホッとする間もなく、台本の読み合わせが始まる。
4時間に及ぶ読み合わせだったのだが、私は少しでも台詞を覚えようと必死で、あっという間に時間は過ぎて行った。
「つ……疲れたぁ」
「おつかれ様、藤ノ宮さん。演劇やったことないなんて信じられないよーすごく良かった!!」
「今年はクオリティの高い映画が出来そうだなー」
仲間からのねぎらいに疲れもやわらいでゆく。
葵が演劇に真剣になってる理由が、少しわかった気がするわね……
達成感というのか、一体感というのか…
誰もが真剣で、恥ずかしがっている方がみっともないと思うほどの張り詰めた空気。
かと思うと、誰かのミスでふっと緩み、リラックスできる空気。
短い談笑があって、また皆の顔が真剣になって……
長時間の読み合わせなのに、集中力が途切れない感じ。
そろそろ途切れる、ってところで絶妙にとられる小休憩。
ああ、いい部なんだなと、私は思った。
……すごく、楽しい。
「千歳、帰ろうぜ」
「あ、うん。それじゃまた明日」
葵がやって来たので台本をバッグにしまい、立ち上がって部員に別れを告げた。
しかし、彼らは驚いた表情で私たちを見ている。
「どうかしたの?」
「えっ!! い、いやー別に……2人はその…あぁいや、仲が良いんだなーと思ってさ」
そう言われて私と葵は顔を見合わせ、同時に吹き出した。
「これでも昔は毎日飽きもせず、ケンカばかりしてたのよ」
「そうそう、ドタバタ走り回ってなー」
私たちの笑みに触発されたのか、友人達も笑い出す。
和やかな雰囲気が漂っていた、その時だった。
「千歳ちゃん、お客さんだよ~」
部員の女の子が入り口で私を呼んだ。
そこに立っていたのは、昨日の男。
「お疲れ様、もう終わったんだろ? 送ってくよ」
格好いい、つもりの笑み。
無理矢理に笑うから口の端がピクピクしてるわよ、まったく。